捨てる愛も拾われる愛も
アスク城の闘技場の控室にて。
「なあ、おっさん」
「誰がおっさんだ…俺が将来リリーナの父親になるとしても仮におっさんはねーだろ」
ヘクトルの突っ込みに、レイは「ああ、将来おっさんになるのは変わりはないがな」と小さく呟いた。
「…エルトシャン王との手合わせ、凄かった。アルマーズを使って神器ミストルティンを持つ彼と対等に戦い、猛将に恥じない戦い方をするのが凄かった…変だな、俺は下手な感想しか言えないのかな」
「んー、お前呪術師の癖に口が悪いな…」
お前に言われたくないと思う。とレイはそう思いながらも心の奥底に仕舞い、ヘクトルは「あー!早く飯を食わねえとセーラがうるせえんだよな!」と叫んでいた。
その戦闘を偶々観戦していたカチュアとラケシスは
「戦闘になるとリミッター切れるのよね、彼は」とヘクトルと一緒に戦い抜いた表情をしており。
「お兄様も、戦いになると敵に容赦しないのよね…」とラケシスも呆れ顔に言った。
「なあ、おっさん」
「何回も言わせる気かって…おい、どうしたんだ?」
ヘクトルはレイの様子の異変に気付き、膝を下げる。レイはうつむいた表情をしており、ヘクトルは彼に困惑の表情を隠せなかった。
「…ヘクトル公は、何の為に戦ったんだ?皆の為?エレブの為…?」
「…未来を紡ぐ為。なんだろうな。未来は決まっているが、ロイやリリーナの姿を見ると、未来は決まっているかもしれない。けれど、あいつやリリーナが未来を紡ぐとしたのなら、俺達の役目は終わっているのかもしれないな…けど、リリーナがエレブをロイと救ったのなら、悔いはねえと思うんだ」
「…ざけんなよ」
「…?」ヘクトルは、レイの態度が可笑しいと気付き――顔を見合わせる、が。レイは静かに怒りを隠せない表情をし、静かに怒鳴った。
「ふざけんなよっ!じゃあ、何の為に…院長先生は、母さんは…何の為に戦ったんだよっ!」
「あっ、おい!てめえ!」
レイは立ち去って何処かに走ってしまった。ヘクトルは手を出したまま、レイのあの表情が忘れられなかった。
「まるで…誰かを想う為に必死になっちまうって感情丸出しなんだよな。あいつ…母さんと、院長先生、か」
ニノとルセアの事を思い、ヘクトルは静かに空を見上げた。もう一人、誰かが居る事に気づき――後ろを振り向いた。
「おい、コソコソ隠れてないで出て来い…」
「ふん、流石は猛将。人を見抜く目は見た目に反して鋭いな」
現れた竜騎士の王を見て、ヘクトルは「ほんっとーに性格が人一番悪いな」と吐き捨てた。
「…あの小僧は、母親と育ての親を想っていたのか?」
「気持ちは分かるが…あいつ、ずっと育ての師と兄と友人しか頼れなかったんだよな。てめーが言うと、説得力が無さすぎるけどな」
「図体がでかいのは相変わらずだな」
「何を言う、てめーも態度を何とかしろ」
言い争っても無理が無い。ミシェイルは、静かにこの場を後にした。ヘクトルは「あ、おい何処行くんだよ」と彼に対してそう言うが。
「少し席を外すが、良いか?」とそう答えるだけだった。