くべられないこの身など

「どうしたの?手が震えているよ?」
シャニーはペガサスに跨りながら槍を持ち、自分の魔導書を持つ手が震えていると指摘した。あの恐ろしい若き竜騎士の王が次々と敵を蹴散らしていくのは圧倒的だった。だが、あの竜騎士の王が、圧倒的強者のように――弱者を蹂躙していくのは耐えられなかった。ペガサスに乗ったエンブラの兵士が悲鳴を上げていく。院長先生やルゥの事を考えると――弱者が強者に蹂躙されてしまうのは世の中では良くある事だ。と誰かが言う。だが、弱者の身からしたら…耐えられないし、行き場のない怒りが募るだけ。だから自分の兄は手慣れない魔導書を手にしてベルンと戦う事を決意した。
「…こわいねー、マケドニアの大将は。斧をブンブン振り回して圧倒的に敵をボッコボコにやっつけちゃうんだから…って危ない!」
彼に向けて魔法を放とうとしている兵士が居る。幾ら彼でも魔法を食らったら一撃で耐えられないだろう――その矢先だった。兵士の胸を、槍で貫いた騎士が軍馬で駆け付けた。
「大丈夫か?」「遅れたのなら遅れたと言え。この大馬鹿者」
「あ、大将のお友達だ」とシャニーは言う。あの金色の髪をした騎士――何時ぞやの騎士軍将パーシバルを思い出させる男は、竜騎士の王と軽くやり取りをしていた。
砦を制圧したとアルフォンス王子が高らかに声を上げ、戦いは終わった。

――医療班が怪我人を治療している間に、広場で少し立ち止まっていると何かに気付いたソフィーヤが自分のところに、駆けつけてきた。
「…どうしましたか?顔色、悪いですよ?」
ソフィーヤは自分が何かを考えている事に気づき、伺ったのだろう。ソフィーヤに情けない顔を見せてしまった。と我ながら思うが、レイはぽつりと告げる。
「…なあ、ソフィーヤ。英雄って何なのか、考えた事はあるのか?」
「…考えた事は、ありますが…それが何なのか、分からないんです。此処には、苦しみを受けた者、悲しみをその身に刻まれた者、欲望を手に戦う者も、皆英雄として召喚されたのですから…」
「そっ、か。俺…兄貴が居ないと深く考えてしまう悪い癖が出てしまったんだろうな。有難な、ソフィーヤ…少し、元気になった」
「大丈夫、でしょうか…」
レイの様子に気付いたソフィーヤは、彼を心配そうに見ていた…。

「なあ、聞きたい事があるんだ」
レイは魔導書を持ち、資料室の椅子に腰掛けながらマリクの方を見ていた。
「えっ?どうしたの?僕に話しかけるなんて、珍しいね…何か悩み事でもあるのかい?」
彼はそう言い、エクスカリバーの魔導書をパラパラとページを捲っていた。
「…あの竜騎士の王が英雄として召喚された事、何か理由でも…あるのか?」
「うっ…ミシェイルの事なんだね…正直、僕も最初彼を見た時は強烈な威圧感を感じていたから少し苦手なんだ…」
マリクはどうやらあの竜騎士の王が少し苦手らしい。だが、彼はこう口に開く。
「…でも、最期はマリア様や、ミネルバ様の為に戦った。どんな状況になろうと妹達の事を思う彼を見て、…ううん、何でもない」
するとマリクを呼ぶ声がした――あのオーラの使い手の声だ。マリクは「あっ、ちょっと席を外すから、この話はあとで!」とそそくさに立ち去って行った。
「行ってしまった…」
変な処、これ以上あの竜騎士の王の事に首を突っ込むのは止めておこう…と自戒しておいた。



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