それは空虚か真正か

英雄なんて信じない、英雄なんて信じられる訳が無い。だってそうだろ?院長先生の「かたきうち」を決意した兄貴やチャドもそうだけど、俺が闇魔法で敵を葬り去ろうとしても、目の前に居る院長先生の「かたきうち」の相手が居るなんて信じられない。此処は夢のような場所と言っているけど、俺は皮肉にも誰かの為に戦うのではなくて――世界の平和の為に協力して此奴らと戦うなんて死んでも御免だと思ってた。
ベルンの将ナーシェン、国王のゼフィール。こいつらと手を組んでエンブラ帝国を倒すなんて御免だ。とレイは思う。院長先生を殺したベルン帝国の者と手を組むなんて、そんなの信じられないんだ。と思っていた。
何が英雄だ。結局は人を殺せば、英雄にも値するんじゃないか。と自傷気味に思う。だが、ある竜騎士は違った。そいつは、飄々と人を小馬鹿にした態度が目立つが――王の畏敬とも言える風格で敵を薙ぎ倒す――異界の竜騎士の王・ミシェイル。

正直、そいつを見た時は竜騎士のナーシェンやゲイル、国王ゼフィールとは違う恐ろしさを感じていた。砦に居るロイやヘクトル(今はリリーナの父親の若い姿なんだが)が戦っている最中に砦に突っ込んで来て、赤い飛竜を駆りながら斧を振るうそいつの姿は、王に相応しい。と思うのが、俺は信じていなかった。
恐怖や畏怖に似た威圧で敵を薙ぎ倒し、向かって来る槍の兵士を瞬殺する姿を――俺は捉えていた。怖い。と感じていた。恐ろしい。と感じていた。
だからと言って俺は黙っている訳でもない。闇魔法で敵を倒していくが、英雄って何だろうと時々思う。

一人殺せば人殺しだが、数千人殺せば英雄。そんな事を思うとぞっとする。

英雄は数千人を殺したら器になれる。そんなものは信じない――なら、何が英雄に値するのか信じたくなかった。だからと言って、黙っていられる子供じゃ無かった。

(――怖い、なんて言いたくない。俺は呪術師だ…ソフィーヤや、ファを支えないといけないんだ)

あの竜騎士は、畏敬を保ち乍らも目の前の敵を殲滅する。敵を殺す、敵を嬲り殺す、敵を蹂躙する。まさに王に相応しい姿だ。だが、俺はそいつを王なんて認めない。英雄なんて認めない。そして――人の姿をした『独裁者』だと俺は思った。
院長先生を殺したベルン王国が憎たらしいと感じた時、俺は…憎しみを保てないと死んでしまう子供なのだろう。とこの時思ってしまう自分が憎たらしかった。此処は戦場だ。だからこそ、どうしても憎しみを保たないと――自分が自分でなくなってしまうのだから。

「…絶対、あいつらを英雄なんて認めるもんか」
手に持った魔導書が、微かに震えていたのをレイはまだ知らない。声が震えていたのを、レイは気付かない。
あの若き竜騎士の王は、畏敬を携えた竜なのだと。



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