「俺にはあの議員が信用出来ない」
ローラーはそう言いながらカップを手に置き、ラチェットに話しかけた。あの一件以来オライオンはショックウェーブ議員とよく話すようになった。何時だって口に出るのはショックウェーブ議員の事ばかりだ。ラチェットは内心、全く嫉妬と言うのは恐ろしいなと思いつつも、ローラーに言葉をかける。
「そうか、私もあの議員の事を本気で信じてないと言ったら?」「オライオンに反発する」
ローラーの口から出るのは不満と愚痴ばかりだ。彼はオライオンを自分なりに大事にしているのは分かるが、その減らず口を同僚達に漏らすべきではないのか?と考えるが――最近、議員絡みの暗殺事件が多い。ローラーが言っていたショックウェーブとプロテウスの対立が悪化しているのも相俟って、ロディオン州の警備兵や警察が大騒ぎするのも仕方がない。それに、ショックウェーブとオライオンの事を誰かに話したら大騒ぎになりかねない…幸い、この喫茶店に人が少ないのが不幸中の幸運だった。ローラーが大型機、自分が医者である事もあって余計に目立つ。ショックウェーブは有能な議員なのはわかっている。学校も経営をしているし、宇宙開発もしている。人柄がどっかの誰かさんと違って良い性格をしているし、この星の未来も考えている。うん、納得の性格だ。これも直観で人を信じやすいオライオンもコロッと信頼してしまう。
そんなラチェットがローラーと些細な会話をしていると、ローラーがテーブルに置いているクレムジーク印の紙パックにふと、気付いた。
「…まだ、それを飲んでいるのか?」
クレムジーク印の紙パックであるが、その正体は一種の興奮を抑える薬だ(あのサーキッドスピーダーの一種を使っている)。ラチェットは頭を抑えながら、ローラーに忠告する。
「いい加減自分で抱え込むのを止めろ、だからと言って言い訳でそれを飲むのはあまり体に良くないぞ」
「分かっている。だが、自分は大型機だ。いつブレインがパンクして自分を傷付けるか、周りを傷付けるのがおかしくない」
「だからそれが言い訳だと言っているんだ!」
ラチェットの怒鳴りでローラーは一瞬黙り込んだ。
「お前さん、自分がPoCであって何も取り柄がないからと劣等を抱え込んでいるんだろう?だから薬を使っている。この心境を話せるのが私だけしか居ないと――」
ラチェットが返事が無い事に気付き、しまった。言い過ぎてしまったと顔を上げると、ローラーは顔を伏せていた。
「…わかった、私は何も言わない。だから、お前さんはお前さんのままに生きろ――ただ、死んだら本気で容赦しないからな」
あの後、ローラーに対して「悩みを抉じ開けてまで打ち明ければよかった」と、デルファイ事件後のラチェットはポツリと呟いていた。とクロームドームは、言及をしていたと言う。