美空結び

バルコニーに出て、一人で考える。
(――俺は、あの時スプリングアームと会って、それで……すまないな、オライオン、ラチェット――俺はまだ、そっちに行けそうじゃない)
あの時、自分が爆風に飲み込まれた後、一人取り残されたオライオンの心境は、到底辛いものだったのだろう。他者から責められ、プライムの重責に押し潰されそうになって――自分やショックウェーブがもし、彼の隣に居たら、彼を支えれたのだろうか。
後ろを振り返ると、グリッヂやスキッズ、オライオンとスプリングアーム達、ラチェットらが居る気配がしてならない、が――今はもう、永久の夢で、見えない過去の夢だ
そして、プロールがバルコニーに設置した地球の『デルフィニウム』と言う生け花を見て、思う。
――自分は、生きて、彼等がやれなかった事を、成し遂げるべきなのだと。

――それは、数時間前に遡る。
「…これで、俺の話は終わりだ」
ローラーが話を終わらせた後、プロールは無言のままだった。ただ、何かを見据えている様子でありながら、彼を見据えていた。
「……君は、寂しくないのかい?」
プロールはデータパッドを取り出した。メガトロンが書いた平和論――今は既に、絶版となっている筈だ。詰まる所、写本。
「平和なんて、結局闘争で解決すると思っていた。私やジャズ、スタースクリームもそう諦め気味になっていて、ディセプティコンとオートボットの溝が深まるばかりだった。けれど、ロディマスやメガトロンが選んだ道――共存が、この宇宙を平和へと導いた、けど」
――それも、犠牲がつきものだった。
「君は、私を恨むのかもしれない。確かにそうだ。オプティマスやメガトロンも居ない――帰るべき場所なんて何処にもなかった。ただ、そうあってほしいと願っていた」
「でも、君が生きる道は十分ある。だから――その本は、君に預けるべきだ。君には、その資格がある」
平和論を彼に渡しながらも、プロールは椅子から立ち上がり、部屋から出て行く時に――その言葉を、口にした。
「それでは、また会おう――いつか、何処かで」


風が乾いている。データパッドを開き、平和論を読んだ。幾度目かの争いで積み上げられた屍と、嘆きと悲しみ。だが、この本には『平和を望んだ心優しい鉱夫から、剣闘士となった男の物語』と『平和を愛し、仲間を信頼した正義に燃えた警察官の男の物語』が確かに、受け継がれている。

何を望めば、この現実は変えられるのか。
何を救えば、この世界は守れるのか。
男は、確かにあった、知られざる物語を閉じ――口にする。

Peace through empathy
(共存による、平和を)




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