色即是空〜卑劣と正義

『さて、司令官殿。一つ問いかけをしよう』
ある日、自らの通信に応えた仮面の男はある問い掛けをした。
『ある男が居た。男は目が覚めたら、蝶の姿をしていた。美しい姿をした蝶だ。ああ、私は夢を見ているのだろうか。私は、蝶の夢を見ているのだろうか?』
「…成程、その問い掛けをした事は――ファルマは、駄目だったらしいな」
『正確には、生きているのか、死んでいるのかは分からないまま――だ。デルファイはレッドルストウィルスが蔓延し、院内はウィルスパニックに陥った。事の露見がバレたファルマは、ロストライトから降りたラチェットやドリフトによって倒された――が、死んでいるか、生きているかはまだ不明だ』
蝶は堕ちる夢を見る。だからターンがその問い掛けをしたと言う事は――ターンが、ファルマを利用した末に、ファルマが自らを破滅させる切っ掛けになったと言う事だ。まるで地球の古い文献に書いてあった悪魔メフィストフェレスのようだな――いや、正確にはファルマはターンと悪魔の契約に等しい取引をしたのだから。悪魔の契約をした者は、自らを破滅に至らせてしまうと言う無残な結末をした。だが、結末は一つだけ違うつまり、ファルマは――自らの手で、このデルファイの悪夢の連鎖を終わらせたのだ。プロールは、ファルマを悼む事も、憐れむ事もなかった。ただ、ひとつだけ答えがあった。
「――彼は、いい医者だっただろうな」
『ああ、良いドクターだったよ。冷たい言葉の裏に、一筋の思いが込められていた。彼は本当に、良いドクターだった』
「…ターン、お前は変わってしまったな。昔はアカデミーでスキッズとよく共に話し合っていたのに、何時の間にか仲間ですら切り捨てる非情で残忍、冷酷な殺人鬼になってしまって」
プロールの鋭い言葉に、ターンはそれを優雅に受け止め――口をまた発する。
『司令官殿、君は――口先ばかりでは『正義』と評すが、その言葉の裏には、鋭い『卑劣』が込められている。つまり君は、あの嫌悪と憎悪であるプロテウス上院議員と何も変わりはしないのではないか?』
また鋭い言葉が刺さる。プロールは、自らの心をナイフとフォークで突き刺されていく感覚を覚えていた。あの時、プロテウスと会話した事の内容を覚えている――違う、ただ、ただ自分はセイバートロンを――その表情を見据えたターンは、クックッと表情を変えずに笑った。
『――どうやら図星の様だね。それでは、通信を終えるとしよう…ああ、そういえばそうだったな、ある時ドクターが、追及したよ』

『――お前は、ローラーなのか?と。生憎、私は否定したがな』

モニターを切り、プロールはただ、指令室の椅子に座り――ただ、どうしようもなく憎たらしい、元々はアカデミーの生徒であった男に舌打ちをした。

それ以降、プロールとターンは通信を行っていない。




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