その翌日。
「おい、其処の女」
プリシラが何時ものように食堂で食事をしていると――高慢な態度を取るリゲル帝国の王子のベルクトが、こちらに顔をのぞかせていた。不機嫌な顔で「其処、席が空いているか?なら俺に譲れ」と言って、勝手に座ってきたのであった。こう言う高慢的な態度をとる王子ってヒーニアスとミシェイルくらいだろう。と心の中で思った。
「…最近、あの黒騎士についてやたら気になる態度をしているな。何かあったのか?」
「いえ、そんな…。私は、彼について知りたいだけなんです…ミシェイルさんから大体の見当は付きましたので」
「あの敵が多い男から話を聞くとはな…あの態度は気に食わん」
中々のブーメランじゃないかとプリシラは思った。貴方も言葉や高慢な態度で敵を作っているじゃないですか。と口にしたら、彼は怒ってしまう。なのでルセアから教わったお口にチャックをする事にした。
「…あの男は、瀕死の重傷を負ってアカネイア大陸からバレンシア大陸に流れ着いた」
…えっ。じゃあ、幸運に生きていたって訳ではないのか。とプリシラはコーンスープを一口飲んで思った。
「瀕死の重傷を負って海岸に流れ着いた時に、ティータと言う女性に助けられたのが幸運だったな…その際に記憶を失っていて、ジークと名乗っていた」
ああ、そうなのかとこの時思った。するとベルクトはパンを一口千切りながら話す。
「正直、陛下に忠誠を尽くすような態度だったな。何処までも真面目な騎士の鏡。俺に対してまで真面目な態度を取る。日々努力をしながら我武者羅に騎士の訓練をしていたが…正直、あいつと手合わせをした時は驚いていた。あの男の実力は本物だ…俺の完敗だ。だが、あいつや陛下に負けていられん!と俺は頑張っていた」
つまり、記憶を失って運命に流れるままにリゲル帝国の騎士になっていたと。運命とは不思議なものだ…とこの時思った。
「だがな――ティータが彼を慕っていたのなら…あの男が、実は異国の騎士だったのなら、彼女はどんな顔をしていただろう――」「ほう、何を話していると思ったら」
「誰だ貴様!?」「えっ!?」と二人が驚きながら後ろを振り返ると、グラドの将軍である竜騎士ヴァルターが、こちらを見て立っていた。
「あの真面目過ぎる騎士の話か…面白い余興を見させてもらった」
プリシラはどんな表情をすれば良いのか、この時分からなかったが――ベルクトは物凄い表情で彼を睨んでいた。
「貴様…立ち聞きとは性格が余程悪いな」
「それは褒め言葉と受け取っておこうか」
「知るかっ!」ベルクトは喚きながら立ち上がる。ヴァルターは飄々とした態度を取っており、ベルクトの態度を把握しているようだった。
「…姫君を思い、最後まで国に忠を尽くしていた騎士は全てを失い…愛おしい聖母に救われるとは、滑稽な御伽噺だとは思わないか?あの男は、過去の光に縋るのか、未来の光を手を取るのか――見物だな」
ヴァルターの言葉に、我慢の限界に達したプリシラは、席から立ち上がる。
「…それは、カミュさんを馬鹿にするようなものです。いくら貴方の言葉でも、限度があります」
それを聞いたヴァルターはフン。と鼻を鳴らし、即刻食堂から後にする――が。

「…ああ、一つ言い忘れていたな。貴様は、自分の育ての母親を目の前で失ったら――耐えられないだろう?それ以上に、肉親を失うのは辛い事だ…まあ、私が其れを言っても説得力など無いがな」

まさか、カムイの会話を聞いて…?プリシラは、歯軋りを起こすベルクトと、姿を消すヴァルターの姿を見る事しか出来なかった。


僕は君の影を探してる



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