カムイ王女は、不思議な人だ。と最初に、プリシラが見た感想はこれだった。誰にも優しく接し、不思議な魅力が満ち溢れている。あの捻くれた竜騎士のヴァルターや、ナーシェンにだって普通に接する。竜石を持ち――竜に変身出来る。マムクートの王女チキや無邪気な神竜のファ、ノノとは違い…ニニアンに似た雰囲気をまとった王女だと思った。彼女は、杞憂かな。と思うが――義理の兄であるマークスと会話する時、時折、嬉しそうな表情するのだと思う。そして、実の兄のリョウマと会話する時だって嬉しそうに、楽しげな表情をする。だから杞憂なのだろうか。と思う――が、あの食事の最中にカムイが言った言葉が、未だに引っ掛かっていた。カミュがカムイを見て、何故悲しそうな表情を浮かべるのか――彼が言った『ニーナ』って人は誰なのか。いいや、彼の事情に触れない方が良い。触れてはいけないものと、触れる事さえ許されない事情があるのだから。

そんな矢先の事であった。アスク城の廊下を歩いている最中――洗濯物を引っ提げて歩いている剣士のカザハナが居た。確か杖使いの白夜王国の第二王女サクラの臣下の一人でもあったが、カザハナはプリシラの姿を見ると、駆け寄って来た。
「こんな所に来るなんて、どうしたの?」
「ええと…ちょっと、道に迷っちゃって。自分の自室に戻ろうかと思いまして」
アスク城は広い。道に迷ってしまいそうだ――なので、彼女はカザハナに頼ろうかと思っていた。何となく、だが。
「…カムイさんって、不思議な人ですよね。…あの竜騎士のヴァルターにだって接せられる人なんですもの」
「カムイ様は、不思議な人だと思っていても、仕方ないのよ。…不思議な彼女でさえ、怒る時だってあるのよ」
「怒る時があるんですか?」
するとカザハナは唾を飲み込みながら…重く、口を開いた。
「…あのね、暗夜のガロン王に目の前で、実の父親を殺されているの。それで誘拐されちゃって…。サクラ様、そしてヒノカ様もその時酷く悲しんでいたのよ…特にヒノカ様が荒れてて、ミコト様が泣きながら制止するほどに天馬に乗る訓練をしていたの。…あたしだって、カムイ様を最初見た時は信用していなかったのよ。それに、態度を冷たくしていたから…」
プリシラは、口を開いたままだった。実の父親を殺されていた。
「…不意な事情にね、カムイ様が白夜王国に来た時は、酷く事実を重く受け止めていた…驚いていたの。『白夜に生まれ、暗夜に育てられた』って。事実が判明する前に、ガロン王を父親と慕っていて…。けれど、カムイの母親のミコト様は、…突然の襲撃で殺されてしまったのよ」
再び開いた口が塞がらなかった。不意に、過去の事を思い出した。ネルガルと、その娘と息子のニニアンとニルス。運命によって翻弄された親子。ネルガルによって傀儡と化した暗殺集団の黒い牙。…プリシラは、カムイもニニアンと似た境遇なのだろう。と悟った。
「…それで、カムイ様はそのショックで竜の力が暴走して…竜石が無かったら、本当に危なかったわ。一歩遅かったら大惨事になりかねなかったわ」
「そう、なんですか…」
カザハナは一時顔色を悪くしていたが、顔を上げて「暗い話題になっちゃってごめんね!」と言った。
「…義理の兄のマークス様や実の兄のリョウマ様を慕っているけど、ずっと長く居た義理の兄のマークス様の方に懐いているのよ。だから…カムイ様を、大事に触れ合ってあげてね」

(…竜の力、ですか…)
プリシラは自室のベッドに寝転がり、その事を思い出していた。竜の血を引く踊り子のニニアンと、ニルス。そして父親のネルガル…。竜の力に翻弄され、多くの悲劇を生んだ。けれど、その悲劇もまた、運命なのだろうと悟る。それが無かったら、エリウッドやヘクトル、カレルに出会わなかったのだろうから。


終わりの予感に怯えていた



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