後日、プリシラは馬に騎乗し――森の中を歩いていた。この先には、見渡す限りの一面の白い花畑があるとセーラがはしゃいでおり、自分が「じゃあ確認して――本当かどうか見てきますね」と自ら名乗りを上げたのだ。だが、一つだけ奇妙な事に、奇遇かどうかは分からないが――カミュがプリシラの護衛をする。と言ってきたのだ。一人では危険だと言っており、何かあったらいざと言う時に――ふいに、自分の一連の行動に気付いていたのだろう。本当は、自分の疑問に気付いていたのではないのか。
無言のまま、森の奥深くを進んでいく。気まずくはないが、何も喋らない、何も起こらない、風が吹き、リーンリーンと虫の声が響く。
「…少し、君に聞きたい事がある」
「はい、何でしょうか」とカミュの問いかけに、プリシラは答えた。すると彼はこんな言葉を口にする。
「――君は、人が死んだら何処へ行くと思うか?」
「それは、私にも分かりません。…ですが、答えられるのは、アカネイアの未来は、クロムさんや、リズさんが証明しているから、きっと…」
カミュは「そうか」と言い、馬の手綱を引いた。彼の声音が森に響く。
「――君が知りたかったのは、ニーナの事だろう。彼女は、気高くはなかった。脆く、今にでも壊れやすい心を持っていた――けど、私は、そんな彼女を愛していた。だから、カムイ王女に、彼女の面影を重ねていたのだろう」
カミュは、空を見上げる。空には、白い白鳥が飛んでいる。

「私はその人に…もう一度会いたいのです」

プリシラはしっかりと馬の手綱を引き、カミュの言葉に耳を傾ける。深い森には、何も響かないし――魂も、彷徨う事はない。
「だが、君はしっかりとしている。君の選択ならば、未来を掴めるか――その未来を、子孫や、切り開く者に託すか。それ以上の事は出来ないが、歴史は必然的だ…だが、私は、今を生きる事しか出来ない。それでも、何かを掴める事が出来る…未来は、悪い方向に広がっていくか、良い方向に広がっていくかのどちらかなのかもしれないが――彼等なら、私やミシェイルですら切り開けなかった未来を、運命を――切り開けるかもしれない」
クロムやリズ、フレデリク、ルキナ――未来は決定しているが、それでも彼等ならば、運命を切り開き…希望の未来を作れるのかもしれないのだから。プリシラは、手綱をしっかりと引き、目的地へと辿り着いた。 
白い花が咲き乱れ、其処には…満面の白い花びらが吹き荒れていた。プリシラは、見渡す限りの景色を見て、空を見た。

もし、その人に会えたのならば、
もし、未来がわかってしまうのならば、
もし――過去に何が起こったのか知ってしまうのならば。

魂は何も答えてくれない。ただ、其処にある事実を記すのみ。

「…それでも、人は何処へ行くのでしょうか」
答えは、まだ帰ってこないままだった。




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