底に流されていく、なにも見なくていい

※もしデルファイ事件後のファルマをターンが拾ったらのif
※病んでる
※原作無視。御都合設定。苦情は受け付けません。
※身体欠損描写を含みます。


「――クターの―――は、ど―――か――」
「――は、ありま―――せ――」
「―――だ、腕は――――――――」
「そう―――――か――――――――今は安静―――――――おけ」

話し声が聞こえる。生死の境に彷徨う際に、苛立つ様な、見覚えのある声が聞こえたのは、何故だろうか。そのまま、意識を眠りの底に陥ったまま…目を閉じた。

目を開けると、ごうごう、ごうごうと音がする。酸素マスクを付けられており、痛みで動く事すらままならない。ただ、自分はあの崖の底から堕ちた筈。落ちた、筈だった。
「起きたかね?」と、見覚えのある声が聞こえた。仮面の男は、こちらを向けて、軽蔑か、それとも哀れみの目線で見ていた。
「丁度、生体反応が消えたので部下に捜索を頼んだがね」
貴方が死に掛けた状態で発見されたと言う報告が入り、すぐさま回収しろと命令を下したのだよ。とまるで、物語を語るような態度で話す。
「それに――ドクター、貴方の腕が、使い物にならなくなったと言うのを聞いて、すぐさま治療を施して…代わりに義手を用意させたのだが、お気に召さなかったようだね」
――腕が、使い物にならない?代わりに、義手?そうだ、崖の底から落ちる前の記憶が、段々蘇って来て―――あの日、あの時、彼と――。
その日、声にもならない悲鳴と、泣き声が響いた。


「可哀想と、可哀相は違うのだよ」といつか、いつだったか…ターンはそう言っていた。ヘレックスは苛立ちを隠せないまま、すぐさま彼の自室へと向かう。自室には、彼のベッドが一個用意されたままだったが、最近はとある来客が増えた為に、もう一個増設された。食事を用意し、自室に入った。増設されたベッドには女が寝ている。少し顔はやつれている様だ。それはそうだろう、あの事件の首謀者故に、自身が認めて貰いたい師匠を手に掛けたと言う事実は消えないのだから。ベッドの横のサイドテーブルに食事を置き、部屋のドアを閉めた。事実上、あの医者が依存出来るのは自分のリーダーだけなのだから。

「彼女は憐れだと、私は思うのだ」

認めて貰いたい師に拒絶され、咎められ、意義を失った。そんなドクターを愛おしいと思えるのだよ。だから、私が彼女に自分を愛して貰えば良い。と示したのだよ。愛の矛先を見失ったドクターは、私だけを見ていればいい。そうすれば――依存していく、愛おしい存在になる。
「…ちっ、洒落になれねえ」
あの男がそう言うと、本気でやりかねない。ヘレックスはそんなむしゃくしゃした思いを、壁に蹴りを入れる事で発散した。


寝ている時に――急に目が覚める。あの日の悪夢が、まだ続いていると、厭な気分になる。ベッドで身を起こし、髪を整えている最中にターンが部屋に入って来る。
「ドクター?」
どうかしたのかね?とベッドに近付いて来る。自分は「眠れない」と答えると、彼は自分の表情を理解し、袖を捲り…義手にキスをする。
「愛している」
やがて、その声音を愛おしく思うようになる――自分は彼の仮面を外し、傷跡をなぞる。そそられる表情をする彼の唇に――愛おしくキスをした。


(すべてがいやになるほど愛されてみないかい、そう愛されるのさ、ほかのすべてから逃げたくなるような、ほかのすべてがいやになるような、そおんな深い愛で抱きしめられたくはないかい、そうだねきみは孤独を愛していたんだったね、でもわたしはあなたを愛してみたいのさ、ねえどうか、うなづいて)

title:臍



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