さあさあ、御覧あれ、御覧あれ。
『アーキタイプの怪物』のショーの始まりだよ。
アーキタイプの怪物は、幼い頃に醜い化け物として人々に石を投げられ、実の母親から売られ、その恨みから人間を喰らい尽したと言われる怪物だよ。心優しい怪物は、愛しい美女に恋をした。その美女は心優しい怪物に恋をした。けれど、何て言ったと思う?「貴方みたいな人といたら、私まで醜くなっちゃう」と。可哀想な可哀想な怪物!でも、これが現実なんだよね。
――とある見世物小屋の語り部の言の葉
マクギリス・ファリドは悩んでいた。実の友人であるガエリオ・ボードウィンと一緒に人間と魔物のハーフが住むエリア――半魔が牛耳る地下都市に来たのは良いが、迷子になってしまった。迷子になるのは幼いころ、ガエリオがべそをかいて森に迷った時以来だ。全くガエリオは。とマクギリスは言うも、此処に派手な衣装を着た女性や、淫らな衣装を着た女が居ると言う事は――娼館エリアということなのだろう。マクギリスは溜息を吐き、さっさとこのエリアから出ていこうと思ったその瞬間。
「ちょっと其処の貴方、『アーキタイプの怪物』を見に来たと言う訳?」
近くの店のカウンターから、肥った老女がマクギリスに話しかけて来た。マクギリスは「アーキタイプの怪物?」と困惑そうに思ったが、この店の女将らしき老女は――「アンタもあの娼館に行っておいで。面白い物が見られるよ」と言って来たのだ。仕方がない、ガエリオを探すと同時に、興味半分行ってみる事にした。
この娼館はいけ好かない。とマクギリスは思う。が、嬌声が聞こえるこの館は、正真正銘の娼館。だが、マクギリスにとっては興味半分でしか、無かった。そう、今の所は。
「旦那、とても金持ちのようですな。もしかして、『例のやつ』を見に来たのですか?」
「下らない。とでも言ったら?」
「面白いもんでっせ」と小柄な醜い顔した半魔は言った。その男に導かれ――トントン。と部屋のドアを開ければ、其処に居るのは、アイパッチをした人間の男だった。
地味な栗色の髪の毛、アイパッチで覆われた眼、レースの白いコルセットが特徴的で、レースの白い下着や白いレースの手袋をしている。口にギャグポールをしており、両腕を手錠で拘束されている。
「半魔界で貴重な人間は高価で売られることがあり、最終的には欲の捌け口としてされる事が多い」
「正解ですぜ、旦那。この『アーキタイプの怪物』は、男娼であって、高級な高嶺の花。ああ、震えが止まらない!…と言う訳で、後は宜しく頼みまっせ」
半魔が立ち去った後、マクギリスと『アーキタイプの怪物』だけが、残された。マクギリスは、『アーキタイプの怪物』の口に加えられているギャグポールを外す。
「…一つだけ、聞いても良いか?」
「…………」
「お前は…何時から、此処にいるんだ?」
「……………」
「なら、何故、抗わない?」
「――貴方は、知らないでしょうね」
「何を?」
「此処のマナーを。人間は、人攫いの半魔に攫われる事がある。私は、幼い頃に実の母親を半魔に殺され――此処に売られました」
「そう言う事か。なら、なぜ抗う事をしない?殺して逃げればいいものを」
「何度も試しました。ですが、必ず失敗しました。その度に、性的な罰を与えられます」
「そうか…」
アイパッチを外すと、寡黙な目が現れた。マクギリスは、『アーキタイプの怪物』を見上げる。
「さて、話は終わりです。どれにしますか。玩具のコース?アナルセックスのコース?それとも――」
「いや、良いんだ。私はそのためにここに来たわけではない。ただ、友人を探しに来た」
「…そうですか…では、私は此処に居ます。お客様と言う訳ですから」
「ああ、じゃあ――また来る」
「また来るのですか?」
「そうだ…後、お前の名前が知りたい。私の名前は――マクギリス・ファリド。お前は?」
「私――私は、石動。石動・カミーチェです」
* * *
私にとっては性交は日常茶飯事であり、この娼館での日常は、辛く苦しいものであった。スパンキング、首絞め、玩具でペニスを弄られ、射精するのも出来ず、手淫や口淫を強いられる事もあった。
「今回は、どのコースにいたしますか…あっ、ああっ、あっ!」
アナルを弄られ、指でぐちょぐちょとかき回される。衰えていたペニスが再び勃ち上がり、しかも亀頭はリングで締め付けられ、射精する事も出来ない。快楽地獄、悦楽の恍惚におびえる日々。だが、そんな日々で楽しみをしているのは――マクギリス・ファリドという男の些細な会話。だから、この男の会話のおかげで、正気を保つ事が出来た。ほかの人間たちは、正気を失い、腰を振る事しか能が無いようにされたのだから。私は、まだ、私でいられる。私は安堵し、ただ、その日が来るのを待ち続けていた。
「…で、お前はいつの日も、セックスを楽しんでいるフリをしているのだな」
「ええ、でも…私は楽しいけど、ハードなプレイは正直言って苦手です」
私はそう言い、マクギリスと会話をしていました。しかし、彼と会話をしているのは、自分についた傷を癒す為じゃないのか。と私は当時思っていました。