毒に杯に花

まだ自分は生きている。生きているからこそ価値がある。後ろで揺さぶって律動を激しく行っている士官が「火星の犬め」と言っている。軍服は脱がされ、口に雄を無理やり押し込められても快楽は全くやって来ない。あるのは痛みだけ。いつも女と言うのは男の慰めものになる運命なのだろう。あの人が自分を優しく抱いてくれて、この激しさを増す慰み者になるだけの行為は、まったく快楽を成さない。あの人を亡くしてから、慰み者になるのはこれで何度目だろう。むしろ、私は、慰み者にされるだけに何も意味を成さないと言う事が憎いだろう。雄から吹き出る白濁の液。蒸せて咳きこめば士官に蹴られ――そのまま士官達がドアを閉める音がした。これで、毒になると言えるのだろう。

シャワーを浴びる。シャワーで身を清めなければ、また次の事が起こるかもしれないし、下部に溜まったどろりとした液を掻きださないと、妊娠するかもしれない。シャワーを浴びている最中、女の体に生まれた事に後悔は無かった。とふと思った。火星支部に居た頃は手ひどい扱いをしされ、最悪の場合は強姦までに発展するかもしれなかった。けれども、あの人はそんな自分を救ってくれた。シャワーからあふれ出るお湯の雨で、穢れた体の身を清める。あの人は私を抱いてくれて、激しい快楽を求めあった。所謂おとぎ話で例えれば『美女と野獣』だろう。あの人が亡くなってから特務三佐の部下になってから、こう言う事が度々起こるようになった。それでも、まだ生きている。

「アイン?」
ガエリオはそう言い、アインが軍服姿でやって来たので、シュワルベ・グレイズのテストをしてみないか?と声を掛けた。
「いえ、結構です――自分は、ちょっと用事があるので」
アインが立ち去った後、ガエリオは「何だか可笑しいなあ」と言った。何時もは不愛想で可愛げのひと欠片も無い彼女が、今日に限って様子がおかしいのは、何故だろう。と思った。けれども、ガエリオは穢れを知らない『貴族』の『お坊ちゃま』だから、アインの様子さえ知らないのだ。
(変だな…)
ガエリオは珍しく、格納庫エリアを歩いている最中――声が響いた。
「……の、火星の…雌……が!」
「………しぶとい、野郎……………だ!」
とある格納庫に声が響いており、ロックが掛っている。が、ガエリオは偶然カードキーを持っていた為、カードキーでロックを解除した瞬間――。

「……お前たち、何をしている」

そこに居たのは、白濁とした液にまみれ、虚ろな目をしたアインと、彼女の髪を掴み、暴力を振るおうとしている士官達であった。

「………アイン、アイン」
目を覚ませば、ガエリオが居た。
「…ボードウィン、特務三佐?」
黒髪を揺らせば、ガエリオは「まだ動くな」と言った。腰に痛みがある。ということは、士官達に脅されてそのまま性的暴行されたのだろう。
「…いつから、あれは続いた」
「答えろ」と冷たい声が響く。特務三佐の言葉には、逆らえない。
「…火星支部、の頃からです」
「そうか……」とガエリオは答える。
「自分は…女の身体だからこそ、あんな理不尽な暴力に耐えて来ました。けれども、我慢が出来ませんでした。クランク二尉は…そんな自分を受け止めてくれました…」
「上官を亡くした後、あんな士官達から理不尽な『毒』に当てられたのか」
「そんな事はありません!ただ、自分は――」
ただ?とガエリオは答える。ガエリオは、アインに口づけをする。

「いいか、アイン――もう二度と、あんな輩に手を出すな。その毒は――俺の毒で、盛れば良い」

毒を以て毒を制する。それが、理。もう、二度と手放したりなどはしない。



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