殉死の肉

【フィンブルヴェトル】
またはフィンブルの冬と言う。ラグナロクの前兆と言う「大いなる冬」と言う意味を持つ。古い太陽が光を失うと、この冬が来て、雪があらゆる方向から吹きつけ、霜は厳しく、風が吹き、この冬が三度続き、其の間夏は無い。

――ある一節によると、三つの冬で世界に戦争が蔓延り、兄弟達が貪欲を求めて殺しあうと言われている。誰一人として、殺人やシヴィアスリト(近親間の血の穢れ)で父親や息子を容赦なく殺すと言われている…。

「君は食事と言うものを知っているか?」
ハラルドはそう言い、目の前にあるステーキを食べた。ジャック・アトラスは信用出来ない彼の食卓に呼ばれ、一人で来た。
「食事は家族で食べるものと一般認識していると言われている。だが食卓は血塗れたようなものだ。かのイエス・キリストが最期の時に食べ――後の最後の晩餐として描かれる様になった。
しかし君は知っている筈だ。化物であるフェンリルはオーディーンを食い殺す」
「…愚問だな」
ジャックはそう言い、ステーキを食べた。何のステーキなのか、訳が分からない。するとハラルドはナプキンで上手に口を拭いた。
「オーディーンはフェンリルに食い殺される。私の運命を決め付けていると言われている。だが、其れでも良い―――自然の摂理だと分かっている筈だ。
なら、君は蛇だ――ヨルムンガンドだ。トールを殺し、トールに殺される。ドラガンとの戦いでしっかりと其の痛みを知っているだろう?」
「信用ならん。俺は俺だ。キングに他ならぬと知っている筈だ」
ハラルドはパエリアを食べる。すると彼は語る。

「君は悪魔だと言われ、竜だと言われ、竜殺しの英雄に殺される運命であっても?」
「君は知っている筈だ。兄弟達が殺しあう運命にあっても」

「ふざけるな!」

ハラルドはジャックの罵倒の声に自分の発言が掻き消されたと死っても尚、彼はフォークでパスタを優雅に食べる。
「俺は俺であり、運命に立ち向かう!貴様如きに屈服する俺ではない!」

「――なら、そうか。君はオーディーンに選ばれる事は出来なかったのだな。
世界は終焉に陥る。止むを得ん。

不動遊星を知っているだろう?彼は私が殺した」

「―――――――!!」
ハラルドの驚愕的な一言で、ジャックの言葉は急激に失われた。
「私が彼が特異点だと知り、彼を殺して――死体は君の傍にある」
「貴様――まさか――」
ジャックは急激に冷や汗が出された。そんな事が有りえる筈ではない、でも、まさか――そんな事は。
「君が、彼の肉を食べた」

「君が彼を分かち合うと知り、私が料理人に頼んで料理させてもらった。
肉とは、大地となる存在ゆえだから。
だが、君は拒んだ。

其れが悪夢だと誰が知っている?」


(君が運命を自覚しない限り覚める訳が無いじゃないか)



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