ヨルムンガンドの生贄

ハラルドは唯単にドラガンとブレイブを引き入れた訳ではなかった。
彼女は世界の危機が迫っていると言っていた。
最初は何の冗談だと言う気もしれないが、彼女は奥底俺に目をつけた。
「死にたがりの君がまだ死ねない話だろう?」と。

――いや、そうじゃない。
唯単に俺を引き入れたのは――ブレイブも含めて――世界の危機を救う勇者ではない。北欧神話で言うオーディーンのエインヘリャル(神々に選ばれた英雄)だとすれば。
彼女は俺達に目をつけたのも、それらのせいなのかも知れない。
だったら、そうだと思う。
ドラガンはそう言い、ランタンで暗い廊下を照らし、歩きながら自分の部屋に戻ろうとする。
ならそれで良い。
現実は幻想に変わるのならば。
ドラガンはそう思い、自分の部屋に入ろうとしていた――しかし。
(おかしいな、鍵は閉じた筈なのに…)
鍵は開けられていた。泥棒の筈は無い――この邸宅にセバスチャンと言う有能な執事が居る筈だ。それにセキュリティも硬い。セキュリティが硬く、そう易々と入れる訳が無いだろう。ブレイブは自分の部屋の鍵しか持っていない筈だ。ならもしかして――。
「…ハラルドか?」
自分の部屋のベッドで寝そべっているのは、ハラルドだった。
彼女は銀髪を揺らしながら白いネグリシェを着ており、其の上に小説を読んでいる。小説は有触れたミステリー小説である。彼女ならば自分の部屋に入る事は容易い。マスターキーか何かで入室したのであろう。
「君か」
「お前か」
声が同時に重なった瞬間にドラガンはハラルドが彼に好意を出しているのが丸見えだった。
確かに彼女は美しい。其れと同時に神にでも愛されているのかと思っている。
そうなのかもしれない。だとしても何故彼女は彼に好意を向けるのか。
「ヨルムンガンドは知っているか?」
北欧神話に伝わる大蛇の様な魔物――か。ハラルドはドラガンにそう北欧神話を語ることは多かった。
彼女は書斎で北欧神話に伝わる本を読んでいる事が多かった。
何故自分を神に選ばれし勇者と言うのだろう。いや、彼女はヴァルキリーと言えるのか。其れとも――自分がもし死んで冥府の其処に落ち、女王ヘルに会えるのかと言えるのなら。自分は死んでいたのだろうか?
「ヨルムンガンドはトールを毒で殺した――そう、書には記されている」
「俺が死ぬと言うのか?」
そうは言えない。ただの戯言だとハラルドはそう言い、書を投げた。
ネグリシェを着ている彼女は中々美しいと言える。銀色の髪はキラキラと光っているかに見える。
まるで死に至る病に冒されている自分を救う神様みたいだと。

「いいや、ほんの戯言だ。と言えるのか?」

「――」
「ヨルムンガンドはトールを毒で殺す。例えるなら君がキングであるジャック・アトラスに負けると言うのなら。
神話は作り上げたほうが効率が良いのではないか?」
ハラルドはそう言い、指先を自分の腕になぞっていた。
「さて、これで私の話はおしまいだ」
彼女はそう言い、ネグリシェを脱いだ。
性行為を行うと言う印だ。しかし彼はこの行為を行った事は一度も無かったが。
下着姿となった彼女はドラガンの髪をぺろりと舐めた。
「っ」
ドラガンは皺を寄せるが、ハラルドは余裕だった。
彼女は白い下着を着ており、しなやかな白い腕を通した。

「君が選んだ事だろう――死に至る行為など、何も意味は無いのだから」

「やぁ…ん!」
つぷりと自身が膣に入れると、プチプチッと嫌な音がした。
血が流れ、彼女は涙を一筋流す。
これは君が望んだ事だろう?
いいや、其れは違う――悪夢だ。
傷みはやがて快感へと変わり、ゆっくりとピストン運動を行う。
「はっ…」
「――っ!」
もしもハラルド――彼女自身が普通の女性として生きられるのなら、こんな馬鹿げた事をせずに普通の人間として生きられるのかもしれない。
だが、出会ってしまった事は仕方が無い話だ。
彼女はドラガンにキスをした。ほんの予兆もせずに彼女は声を荒げ、限界が近付いていた。
「はあ――っ、やっ…あ、あ、あ…」
「――くっ…」
子宮に液がゴポリと流れ、痙攣を起こしながらも意識を失った。

「……」
ハラルドは寝ている。
性行為を行った後、シャワーで後始末をしてベッドに寝かせた。
ヨルムンガンドがトールを毒で殺す。
そんな馬鹿げた事が何故かドラガンを不本意に不安にさせていた。
もしもジャック・アトラスが本気で戦っていたのなら。ドラガンは本気でジャックを殺していたのかもしれない。
ヨルムンガンドがあの龍だとしたら。
ドラガンは何故か不本意にハラルドの一言が不安の種にさせていた。

『もしも君がジャックと本気で戦いたいのなら、やがて起こる未来を待ってみるがいい』
彼女はそう言いながら、紅茶を飲んでいた。
『ヨルムンガンドはトールを殺す――しかし、トールによってヨルムンガンドは殺される』
ハラルドはそう言いながら、笑い飛ばすような事はしなかった。
『君は望んでいる筈だ。王の終焉を』

だったのなら?
もしも、ハラルドが本気で未来を見据えていたのなら?

ドラガンは優しい手つきでハラルドの頭を撫で、自分自身もベッドで眠りについた。


「君は知っている筈だ。唯一の真実を」

しかし、知らずに起きていたハラルドは眠るドラガンにそう告げた。
彼は、その事を知らずに眠りに落ちた――。



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