HAPPY UNBIRTHDAY

さて、一番困るのは自分であろうか、それとも彼女だろうか。

「しかめっ面のあんたが、アタシの所に来るって事は、さては恋愛関係でお悩みのようね。しっかりしなさいよ、アンタはいつも不機嫌な顔をしているけど――女心を分かって貰えないと、この先将来困る事になるわよ」
バレンシア大陸の弓兵である彼は、目の前に居る自分にそう言い――紅茶を自分に差し出した。休憩室で不機嫌な自分を見て何かを察したであろう――突然、自分の前で椅子に座り、話をしに来たのだ。
「あの子は踊り子としてアタシ達を元気付けているけど、何処か表情がアンタの方に向いていたわよ…でも、アンタは父親の顔しか見ていなかった。しょうがないわよね。いきなり死んだ筈の父親と、生死不明だった叔母が一緒に居たら驚く処じゃないわよ…でもね、あんたは前を見すぎている。あの子の気持ちを察してあげなさいよ」
リーンの事を話題に出す彼は、恋愛感情や女性を誰よりも理解出来ているのであろう。だが、彼はズバズバと図星を言いまくる。
「アンタは女の子の気持ちを少しでも考えなさい。あの子だけじゃなくて――ノディオンのお姫様も、辛い表情をしていたわよ…と言うか、物凄い表情をしていたわ」


運が悪いのか、それともついていないだけなのか。

「いとこの気持ち…長い間、貴方が彼女と出会っていないと、彼の方に気持ちが感情移入するのも、無理は無いと思いますよ」
銀の貴公子と言われている弓騎士はそう言い、生け花を花瓶に容れた。彼もまたトルバドールの妹を持っているのか、「意外と家族想いなんですね」と苦笑しながら談話室のソファで座っている自分を見つめ――「ですが、貴方も一種の思春期なんですね」と微笑ましく笑った。
「貴方が私に話をしに来たのは、恐らくは母の日の事なんでしょうね。ナンナ王女の母の為に、色々四苦八苦アスク城で走り回っている姿を見ましたから。アンナさんに対してカーネーションは?とか、聞こえてきましたからね。しかし、ラケシス王女の恋人のフィン殿は…凛々しい騎士でしたね。でも、何処か寂しげな表情を浮かべていました。まるで、生き別れた兄妹のような表情でした――すまない、かなり強張っている表情をさせてしまって」
銀の貴公子――クレインは、生け花をテーブルに置いた。生け花はカーネーションだった。
「私も、エリウッド公から父上と母上についても聞かされたけど――プレゼントなど、必要ないんじゃないかな。これは、私の「あくまで推測」だけどね。


「母の日?」

天馬騎士――彼女達の世界で言うなら、天馬武者であるか。紅の王女は、汗を拭くタオルを妹のサクラから手渡され、汗を拭いていた(恐らく特訓でもしていたのであろう)。サクラは何か言いたげな表情をしていたが、
「プレゼントを無理に渡す必要がないと思うのだが…母の日は、プレゼントを渡す、カーネーションを渡すと召喚師殿から聞かされているが、別に無理しなくてもいいのだ。と聞いている」
ヒノカは「母上が生きていた時は、お祝いとかしていたのだがな…」と何か悩ましい表情を浮かべていた。するとサクラは「恐らく、ラケシスさんや、ナンナさんには、プレゼントは必要ないと思いますよ」と答えた。
「今は居ないと思われている恋人や、お母様が一緒に居れば――それで良いと思っています。この世界は有り得ない事だらけの世界ですが、傍に居ればそれで十分だと思いますよ」
私にも覚えがあります。とサクラは寂しげに呟いた。これ以上彼女達と話をしていたら、サクラの臣下である剣士が誤解を纏って自分に突っかかりかねない。此処は早大に立ち去る事にした。


「俺に話をしなくても何も得は無いと思うぞ」
リゲル帝国の王子は、早大に不機嫌な表情を浮かべた。
「母の日、か…フィンという騎士は、ラケシスに恋をしているようだな。俺にも見覚えがあるぞ」
彼の言っている事――話は読めた。カミュの事であろう。経歴は言わないでおくが、一時彼の臣下だった時期がある。ベルクトはその事を理解しているからこそ、フィンの事を言ったのであろう。彼の隣で暗夜王国の女性ソシアルナイトがこっちを見てニコニコ笑って手を振っている。また手合わせは後にしておくからな。と心に誓いながらも、ベルクトは話を続けた。
「俺の臣下は、どうも堅物であるが…忠誠心?騎士の中の騎士であるが、どうも抜けている部分がある。それ故にあの貴族の弓使いから「人は欠点があるからこそ良い」と言われた時は、正直物申したかったけどな」
人は欠点があるからこそ良いのだ。多分、その方が良いと思うのだ。自分が考えるほどに――ナンナは父親の事が大好きであり、リーフの事が大好きである。叔母もまた、フィンの事を愛しており、大好きな父を敬愛していた。
自分に居場所は無いだろうな。と溜息を吐きつつも、この場を後にしようとした時に――彼はとある事を口にする。

「そうだな――貴様が大事に思っている女の処に行ってみたらどうだ?母にプレゼントを贈るのが、母の日だけでは無いと思うのだがな」


「で、結局は振出じゃない」
リーンはそう言い、不機嫌にラスク(オスカーから貰った)を食べていた。「本当、デリカシーのない人ね」と小言を言いながら、自分が食べているホットケーキを摘み食いした。
おい、とリーンに文句を言おうとすると――彼女は「別にいいじゃないの」と口にする。

「母の日だからって、あまり人の恋愛感情に突っ込まない方が良いと思うわ」

だって、恋愛は人を狂わせるじゃないの。
リーンの楽しげな言葉で、自分は少し疲れた表情をしながらも――家族の意外な一面が見られる事が出来たな。と心の中で思いながら、フォークでホットケーキを摘まみ、口の中に入れた。



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