エルピス

※エコーズ、覚醒要素を含みます。

私は小さな小鳥だ。空を飛び、大空を駆け回る翼を持つ。

グルニアと言う国とマケドニアと言う国がドルーアに忠誠を誓い、あのアカネイアの王族虐殺時に、彼は彼女を保護した。グルニアとマケドニアはアカネイアに反感意識を抱いていた。アカネイアもまた、マケドニアを奴隷の国と嘲り笑う者達が居る。彼は彼女と些細な会話をしていたが、やがて小さな恋に落ちてしまった。だが、それは叶わぬ夢。ドルーアは彼女を差し出すように彼に命令した。彼は彼女を連れて、パレスから脱出した。三人の部下と共に、叶わぬ願いを差し出すように。私はその光景を見ていた。彼女はオルレアンの英雄と呼ばれる男に保護され、彼は捕縛されてしまった。その後、指揮官を剥奪された。と風の噂を耳にした。
私はオルレアン城内の窓の外の木々に留り、彼女が窓辺の月明りを見ていた光景を目にしていた。可哀想とは言えない、何故なら彼女は、無知だったからだ。自分の血が、過去の呪われた業を背負っている事を――彼女は知らない。けれど、可哀想とは言えなかった。自分が、王家の座に耐えられるのかどうかを背負ってしまったのだ。あまりにも、突然に。
やがてドルーアに反旗するアリティア軍が、アカネイア大陸の最後の希望と謡われるようになった。後の英雄王マルスと、彼を支えたペガサスを跨る騎士のシーダ。そして――彼等を支える仲間達。
私は、自由に空を飛びながらその光景を見ていた。アカネイアのパレス奪還、グラの敵討ち、悲願であったアリティア奪還。そう、やがてマルス王子はスターロードと言われるようになった。星の王と言われるほどに。
彼もまた、決意をしていた。人質にされた王の双子は救出されたが、もう後戻りは出来ないと悟った。自分は騎士の道しか生きられない。そうでなければ、自分を保てないから。と言い聞かせるように。
彼と彼女が、再びの別れとなった、あの場所でマルス王子は彼に降伏を願うようにと言った。もう誰も犠牲にしたくない。彼の切なる願いは――男に届く筈は無かった。男は、其れしか道が無かったのだ。彼は、彼女に幸福を願った。短かったけど、今まで一番あの一時が楽しかった。男は彼女にそう告げ――散った。
何が一番幸福なのだろうか。生きて、生きる事が幸せなのだろうか。私は鳥だ――だが、私には分からなかった。

ある時、バレンシアと言う大陸に飛んでみた。アカネイア大陸はオレルアンの英雄ハーディンが婚約し、アカネイア国王の座に座ったと噂は持ちきりだ。しばらくの間、バレンシアに飛んでみる事にした。
男は、瀕死の状態で浜辺に倒れていた。女性は浜辺で散歩をしていたら、偶然なのか、運命なのか…彼を見つけた。彼女の必死の治療の末、男は息を吹き返した。私は何も言わなかった。死に切れなかった男は、何も知らないまま――バレンシアに流れ着いたのだから。私はその光景を窓の外で見ていた。女性は嬉しそうだった。彼と共に暮らすのが、今まで一番楽しそうな光景だったのだから。
だが、そんな一時も運命は見放してくれなかった。ミラとドーマの抗争が、終わらんかのように…リゲル帝国とソフィア解放軍の戦いは激しくなった。リゲル帝国の王子である事を知らないアルムと、ソフィアの王女であるセリカの運命は――やがてうねりを上げた。男は、女性を人質にされて腐敗したリゲルに無理やり従っていたが――アルムが彼女を救出した事によって、彼はアルムに力を貸した。彼は、リゲルに忠誠を誓っていた。それは、過去の残響か、それとも――後悔なのか、私には分からなかった。だが、私はその光景を見ていた。
やがて戦いは終わりを告げ、バレンシアは一つになった。神々の時代は終わりをつげ、今度は人間の時代へと移り変わろうとした。男は、記憶を取り戻す内に――未練と過去を断ち切り、償いをする為に再びアカネイアに行く事に決めた。
自分を騎士だからと、殺した男は――自由を手にしたが、その剣は誰のものでも無かった。過去を、断ち切る為に。

私は其れを見届けようとした。小鳥の寿命が散っても、空気に生まれ変わり、土に生まれ変わる。ある時は動物に、ある時は虫に。ある時は――竜に。
アカネイア大陸はハーディンが闇へと堕ち、暗黒皇帝として男の祖国やマルスの祖国を蹂躙した。
男は名を偽り、仮面をつけて祖国の双子をオグマと言う男に任せ、共に海賊を撃退した。私自身は、何も語る事はなかった。だが、男は彼女の幸せを願うように、剣を震えた手で握りしめ――今は皇帝の物である自身の愛槍を恋しがる事は無く、自分の手でマルスやオグマ、シーダを手助けした。
彼は、バレンシアでの、アルムがまだ幼さを残しながら――解放軍を導いた事と、ティータの祈りと、ベルクトとリネアの最後の時に果たされた愛も、ルドルフの誰かの為に願う思いを知ったのだろう。
マルス王子は、自分や――マケドニアを指揮したミシェイルとは違い、未来を切り開いてくれるだろう。と願いながら。
暗黒皇帝はマルス王子に討たれた。けれど、悲しい戦いだったと私は思う。ハーディンも、彼女の事を愛していた。彼女の心は、彼に惹かれていた。そう、それはアルテミスの運命のように。誰もが罪ではない、ただ、歴史は記すのみ。

やがて、彼は彼女と最後の再会する。
何故、貴方が。と彼女は言う。男は、貴方は思い違いをしている。と答える。

私はその言葉のやり取りは、最後の別れのように見えた。男は、何も言わずに何処かへ姿を消した。やがて女も、彼を追うように姿を消す。

彼は最後の希望を、マルス王子に託しているようだった。
自分では如何しようも出来なかった困難を、彼はやり遂げてくれた。彼ならきっと、希望を紡いでくれるだろう。
そう願っているように見えた。

やがて時は経ち、数千年が経過した。
アカネイアがあった場所は、イーリス聖王国へと変化し…その場所で、マルスの子孫と、彼女の面影を残した妹が共に自警団を結成してこの国をより良い方向へと導くように奮闘している。

カミュよ、お前の願いと希望は――マルスに無事受け継がれたようだぞ。
何処かで、見ているのだろうか。と私は鷲の姿へと変化し、イーリスの大空を飛び立った。



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