Hydrograph

※某作品パロみたいなものですが、原作を知らなくても支障はないと思います。


「奪われても、蹂躙されても、運命に弄ばれて、全てを失っても――僕は、其れでも誇りに生きて、かっこよく死んだと思うんだ…貴方のような人生を、送れる事なんて出来なかった」

悪竜が剣に蜷局を巻いている紋を見ながら、青年は静かに資料を漁る。静かな屋敷であるが、名家の当主である若い青年は――窓を見る。何処かで戦争が続いている。あの悲惨な戦争から一年経過した。沢山の死者が出た悲しい戦争だった。血で血を流す辛い戦争だった。名家の当主である彼も、戦後処理に追われていた。戦災やタリスやマケドニアの復興の手伝いをしつつも、グルニアはロレンスが一時的に民をまとめておくと占領国のアカネイアに告げていた。
―――――名家の当主であるルフレは、馬舎に駆け寄り、馬の世話をする。ブラッシングをしないと馬の機嫌が悪くなってしまう。水桶を出し…事が終わった後は水桶を片付け、外に出る。心地良い風が吹いていた。良好だ。とルフレは口でそう告げながら、倉庫から武器の剣と魔導書を出し、出発する準備をした。
「ねえ!そろそろ出発する準備をするけど、良いかな!」と屋敷の向かいに居る仮面の騎士にそう告げながら。

ルフレが瀕死の重傷を負ったこの男を引き取ったのは、あの悲惨な戦争が終わった際の出来事であった。兵士の一人が人が倒れている。と情報を聞きつけ、確認した時には男の息はもう切れそうであった。侍女のシスターたちの一か月に渡る必死の看病の末に男は意識を取り戻したが、錯乱する様子もなくただルフレの話し相手に付き合ってくれた。

『見た所、グルニア生まれなんだけど…グルニアって、あの帝国に属して戦った国…なんだよね?』
ルフレの問いかけに、男は黙ったままであった。男は今現在の状況を教えて欲しいと言っており、ルフレは今現在の状況を説明した。グルニアはアカネイアの占拠下にある事、ロレンスが国を一時的に纏め上げている事、彼が身を挺して助けたニーナ王女はオレルアンの英雄ハーディンと婚約した事を。
彼は錯乱する事も無く、ただ「そうか」と答えただけだった。だが――噂を聞く限り、彼があの猛威を振るった『黒騎士』なのではないか。と考えた。これをアカネイアやアリティアに伝えたら、彼の立場が危うい――となると、彼の事を隠しつつ、何も変わらぬ顔で宗主国であるアカネイアに偽の報告をする事にした。
彼と食事をしつつ駄弁り、剣の稽古に付き合い、何も変わらない日々が続いた――けれど、そんな日常は長くは続かなかった。人々が噂をしている。「ハーディンは人が変わった」「まるで民を民と思っていない言動が見受けられる」「アカネイア騎士団も、大臣もまともな人達は皆投獄された」「ニーナ王妃の姿も見ない」と。

「――彼女の真意を確かめる為に、ハーディンを止める為に戦うんだろ?なら…僕も付いて行くよ」
「貴殿の装備は心細く感じるが、大丈夫なのか?銀の剣と、ファイアーの魔導書。魔法騎士としてはあまりにも心許無い」
「別に、大丈夫なんだ。当主として、当たり前の事をしただけ。こんなんじゃ、自警団のリーダーで、指揮官としてやってはいけないよ」
「なら、良いのだが」
彼も銀の槍と剣を携え、まるでお前に言われたくないと言わんばかりの装備だ。だが、ルフレは馬に乗りながら、彼に問いかける。
「シリウス」
「何だ?」
「此処に居るのは黒騎士カミュじゃない。ただの旅の者であるシリウスだ。けれど、あの双子を助けたいし、ニーナ王女も今どうなっているのか知りたいのは、存在も名前も立場も捨てながら、忠義と使命はあるんだろ?」
「…貴方は、当主に相応しくないな、人を思う気持ちは一倍強い。当主でありながら、アカネイアに反逆行為同然の事をする」
「別に良いんだ。誰かを助ける気持ちは人一倍強いし、それに僕は当主なんて向いていない」
馬を走らせ、ルフレは仮面の騎士に問いかける。

「それに、かつて戦争でマルス王子達と戦った君は、誇らしく思えたんだ――騎士として立派に戦い、騎士として死んだ。僕には真似できない。けれど、誇らしく思うし、嬉しく思う。君が何を言われようが、君は君だ」

(――ああ、そうだな)
シリウスは隣にいるルフレに思いを秘めながらもそう告げ、目的の場所へと走る。

今度こそ、彼女を真意を確かめる為に狼殺しの騎士は――魔道の少年と共に果てへと走り出した。





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