fragment

※紋章本編終了推定


バレンシア大陸は動乱や解放戦争が終わった後も、未だにその深い傷跡が残っている。リゲルの地に足を踏み入れたシルクは、その爪痕を癒す為に人々を救う仕事をしている。ミラとドーマ、二柱の神々の加護がこの大陸から失われ――其れを人々に任せ、その未来が希望に満ち溢れるのか、絶望に落とされるのか。それとも混沌の未来になるのか。未だに分からないままだが、人の心次第だ――彼女は、どうか神々がこの地を去っても、大陸に素晴らしい未来が満ち溢れますように。と願った。
すると、リゲルに足を踏み入れている時――とある噂を耳にした。

「知っているか?隣のアカネイア大陸、また戦争が起こったけど、一か月前に終戦したってよ。何か『王の中の王』と呼ばれる英雄王が暗黒竜を倒したと聞いたけど、辛い戦争だったらしいな…」
「オレルアンやグルニアが特にその爪痕が酷かったらしいぞ。オレルアンの英雄が歴史に残る悪人になってしまうとは、残念な事だ。グルニアなんて大陸一の騎士を失ってから衰退が激しかったってよ…。今は王の遺児達が復興を頑張っているらしいけどな」
「そう言えばアカネイアの王女が英雄王に全てを委ねてから姿消したってよ。んで、暗黒竜の生贄にされかけた王女を救った謎の仮面の騎士も姿を消しているらしいけど、誰だったんだろうな、あの騎士は。噂ではグルニアの騎士の幽霊なんじゃねーかって意見もあるけどな」

(アカネイア大陸でも、辛い戦争が起こってしまったのでしょうか…。それでも、人は試練を乗り越えられるからこそ、戦争を終わらせたかもしれませんね)
アルム達と長い間一緒に居たからこそ、シルクは確信した。すると森の中に、マントをし、フードを被った男が目立つ様に、路地裏に入って行った。
(?誰でしょうか…?この大陸では見かけない、珍しい客人ですが…)
あの刺々しい雰囲気は、この大陸の者では無い。そのフードを被った男を追い掛け――シルクは森の中へと入って行った。
森の騒めきと共に、そのフードを被った男を追い掛け、寂れた砦の中に入って行った。やっと追い付き、彼女は恐る恐る彼に問い掛ける。
お聞きしても、宜しいでしょうか。貴方は、この大陸の者では無いのでしょうか?」
マントを着た男はフードを外し、その顔を覗かせた。荒々しい焔の眼に、紅の髪をした男であった。何処か刺々しい、人が近寄りがたい雰囲気を纏っている。
「だとすれば、俺に何の様だ?」
「貴方はこの大陸の者では有りませんね…過去や、何かあったのかを問い掛けるのは、あまり宜しくないのですが、何処へ向かうのでしょうか?」
すると男は、こう口にした。

「人を探している」

「人を探している…その人の特徴を、教えて下さい」

男はシルクの言葉に、唾を飲み込むかのように複雑な表情を浮かべ――空を見上げ、口にする。

「そいつは頭が固くて、人に優しくて、騎士の鏡のような男だった。相も変わらず真面目で、俺にも砕けた態度で接しているが、自分自身の道を信じ――結局は、道を踏み外して、男は一度死んだ。愚かな、無茶な行動だったと思ったが
な」

シルクは、口を開かない。

「自分が助けた王女に言葉を残して、過去に犯した過ちを悔い乍らも、そいつは滅ぶ祖国と共に散った。だが、そいつは生きていた。過去の過ちを償う為に――あの戦争に姿を変え、名前を偽りながらも参加した。無茶な男であって、我ながら…愚かな行動をしていた男だと思うがな」

「…そう、だったのですか…。ですが、その人は今何処へ?」
「姿を消した――未だに、あの男はこの地に居ると聞いて、この大陸に渡って来た。…下らない話だと思うが、忘れろ」
男は砦から姿を消そうとする。歩みを止めない男に、シルクは「待って下さい」と言った。
「…もしかしたら、その人に心当たりがあると思います。もし、伝言があるなら教えて下さい…会ったら、私がその人に伝える事が出来るかも知れません」
シルクの提案に、男は「いや、良いんだ」と丁重に断った。

「――その男は、過去を振り返らない。不器用な男だ。だから、伝えても無意味だ――前だけを、歩む事しか出来ないのだからな」


砦から男が去った後、シルクは森の、小鳥の囀りをしばらくの間、聞いていた。
(…『騎士の鏡のような男』です、か。恐らくは…彼なのかもしれませんね。ですが、他人の痛みをあまり、触れてはいけないと思うのです。癒せない痛みと、癒せる傷みがあるのだから)
彼女は立ち上がり、再び目的地へと歩む。

「…ああ、そう言えば…。あの人は、何故彼を知っていたのでしょうか?」

それは、当の本人しか知り得られない言葉であった。





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