悲哀の果て

※エコーズの重大なネタバレを含みます。


グルニアの黒騎士団との戦いは、虚しさと――遣る瀬無さを感じ、結局は、人間と人間の殺し合いは無意味なのだと思い知らされたのだ。アカネイア王族の生き残りである王女ニーナを最後まで案じ、愛した黒騎士カミュ、そしてカミュとニーナの身を最後まで心配し、黒騎士団を率いる彼とは戦いたくないと論しても、結局は剣を交える事しか出来なかったマルス王子、そして、マルス王子にファイアーエムブレムを託し…最後までカミュを信頼し、愛していた王女ニーナ。暗黒戦争は、ただの竜人と人間の戦いではない。人間と人間のエゴがぶつかり合う、空しい戦いでもあったのだ。戦争は終結し、オレルアンの王弟ハーディンはアカネイアの王女ニーナとの婚約をする。一つの、歴史のターニングポイントを迎えた。

――だからこそ、なのだ。亡き人を想い、自分にどれだけの枷があると思い知らされたのは。

城内のバルコニーに冷たい風が吹いている。それは、死者がこちらにおいで。と手招きされているように感じたから。王女である自分と、敵国の将として死んだ彼。お互いを思い遣る気持ちは分かるが、身分が違いすぎたのだ。けれど、今は――前を向く事しか出来ない。しかし、前を向く事すら、出来やしないのだ。前を向く事しか出来ないあの騎士の気持ちが――今になっては分かる気がしたのだ。彼の死と向き合えず、ただそうやって時が過ぎゆくだけ。過ぎていく時間は戻らない。だから彼女は――小さく歌を口遊むのだ。

「抱きしめないで、私のあこがれ。密かな腕の中――このままで良いから」

小さい頃に、乳母から教えられたこの子守唄は――気が付くと口遊んでしまうのだ。アカネイアの、眠れない子供の為に聞かせる子守歌と聞いている。御淑やかな、可愛らしい幼い王女は、やがてアカネイアの白い薔薇と言われるほどに美しく成長した。けれど――あの時、パレスが陥落した時に、彼女の家族も、身内も、全て殺されてしまったのだ。どうして?とは言えなかった。まるで、私達を恨んでいるかのように。

「その青い瞳、美しい愚かさ。あなたのなにもかも――奇跡だと信じた」

人はゴンドラに乗り漂い流れる。出会いそして別れ、短い真夏。哀しみとよろこび繰り返して…。

そう、誰しも別れは突然訪れる。出会い、そして、別れ。生死問わず――別れは突然、訪れるものなのだ。共に居る時間は短い。だから、別れは突然訪れるのだから。あの時、彼と過ごした時間は――掛け替えの無い時間だった。けれど、彼は自分の為に――命を張って救ってくれたのだから。けれど、あの時――彼を失ってから、悲しみしか、感情は出なかったのだ。

「いつかは終わる、一時の恋でも。あなたは…永遠を…私に、残すだろう…」

そうして、自分は泣き崩れる事しか出来なかった。泣いて泣いて、泣きじゃくったのだ。

*  *  *

記憶を失っても、心に何かが引っかかるのだ。

リゲルでの生活は厳しい。軍事勢力が強いこの国では、リゲルの民の生活は厳しいが――今を精一杯生きているからこそ、リゲルの神に感謝しているのだ。リゲル城内部の空気は冷たい。だが、こんな余所者でも――ティータは優しく迎えてくれたのだから。すると、見覚えのある青年が姿を現した。
「こんな場所でふらふら歩くと、風邪をひくぞ――何だ、貴様か」
リゲルの皇帝ルドルフ陛下の甥であるベルクト――彼は、父親のような皇帝になる為に、日々努力をしている。余所者である自分にも厳しく、性格故か――敵を無意識に作っているようだが、婚約者であるリネアに対しては心を開いているようだ。
「…父上から話は聞いたのだが、貴様は大怪我をして記憶を失って浜辺に打ち上げられていたらしいな。そして、村に住んでいる女性に助けられたと聞いていたが」
「確かに、殿下の言う通りです――私は、記憶が一切ないまま、ティータに助けられたのですが…こんな余所者の騎士でも、ルドルフ陛下や彼女には感謝をしていますから」
「貴様のそう言う真面目すぎる性格が、俺には気に食わない」とベルクトは言うと、父の処に行くと言うらしく、自分も丁度陛下に話をする為に、城の廊下を共に歩くことになった。ふと、無意識に何かを口遊む。

「水を含んだ風が、頬をなでてゆく。何もかも忘れて、壊してしまえ」

「――何だ、その歌は。誰かに教えられたのか?」
「…いえ、記憶の中で、ずっと――引っ掛かっている歌なのです。この歌を口遊むと――大事な、何かを見失っている気がするんです。誰かを、大事にしていた。ずっと、戦いに、明け暮れていたような――」
記憶の中で、ずっと引っ掛かっている愛しい笑顔をする女性の顔が黒く塗り潰されていて、よく分からない。誰かを、愛していた気がした。誰かの為に、忠誠を尽くしていた気がした。
「…成程な、だが、貴様は今を見つめろ。ただ、俺を怒らせるような真似をしたら承知せんぞ」
「はい――分かっています。大事な陛下の、甥であり、仕えるべき人なのですから」

こんな小さな自分も明日も――あなたを、愛してる…。

*  *  *

ずっと、謝りたかったのだ。辛い思いをさせたニーナに、彼女に、嘘をついていた事に。貴方はカミュなの?と問い掛ける彼女に、自分は否定した。ただ、仮面越しから見た彼女の表情は、辛そうだった。彼女を見て――愛する婚約者を生贄にしてまで、心境を吐き出したベルクト殿下も、最後まで息子のアルムを愛していたルドルフ陛下も、こんな表情だったのだろうか…。もう、自分の気持ちに、嘘を付きたくなかった。ただ、無意識に――あの小守歌の最後の部分を、を口遊んでいた…。

抱きしめないで、私のあこがれ――密かな腕の中、このままでいいから…。

Azure eye

劇中の歌詞:青/い/瞳(坂/本/真/綾/)



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