雨が降る

※エコーズ設定を含みます。


――ドルーア帝国とマルスが率いる軍との戦いは、後者が徐々に優勢を持ち始めていた。流石アンリの再来にして、アンリが個の英雄ならば――マルスは集の英雄と言われるほどだ。だから、自分達グルニア王国の黒騎士団と戦える力を持てる程に成長したのだろう。竜人が牛耳るドルーア帝国での、『人として当たり前』であるからこそ、ドルーアに戦える力を持っているのだ。力は竜人の方が遥かに上回るだろう。だが、人は時として竜人を上回る力を持っている。自分達黒騎士団も、ミシェイルのマケドニア騎士団も、『人として当たり前』であるからこそ、何時かはこのドルーアを倒し、世界を統べる頂点に立ってみたいと思っているであろう。
「相も変わらず貴様は優しすぎて、真面目過ぎる。騎士として高潔な魂を持ち、何より騎士の心として誰かを慈しむ心を忘れていない。それが仇となって、貴様の立場は危ういと言うのに」
マケドニアを統べる王はそう言い、バルコニーに凭れ、夜の冷たい空気に耽る。夜の空気は冷たい。だが、それは時として癒しとなってくれるであろう。
「あのアカネイアの王女の生き残りを助け――オルレアンへ逃がした。それだけが、貴様の遣り遂げた事か。満足しながら、死んでいくのに十分とは――もっと、やり切れた事があっただろうに」
「貴方も、妹達と触れ合う時間があれば――彼女等と敵対する事はなかった、けど、自分のやりたい事、『人として当たり前』だからこそ――それを、優先させる」
「貴様に言われたくはないがな」と嫌味に近い発言をされるが、それはそれだ。あのドルーアの王や、それに仕えている竜人達は、自分達人間の力を見縊っているのだろう。だが、人間の力を甘く見てはいけない。『人間として、当たり前』の『かけがえのない今』を生きているからこそ、人は竜人を超えるのだ。
「――もっと、彼女と触れ合う時間はあった。もっと、王の遺児である双子と触れ合う時間はあった。もっと、自分として選べた時間はあった――だが、過ぎた時間は戻らない。それでも、今を精一杯生きて、精一杯満足して死ぬ。私は、そんな不器用な道を選ぶ事しか出来ないから、やりきれなかった事をもっとやりとげたかった、後悔はある」
「貴様でも後悔はあるのだな――いつか、その不器用な道を生きて、精一杯『人として当たり前』の道を行くが良い。俺も、お前も相当の大馬鹿者にならないように」

「ああ、そうだな、何時か――また、精いっぱい生きて、やり遂げられなかった事をやりとげる為に――」


ふと、風が心地良い気がした。
アルム達解放軍がヌイババからティータを解放し、自らはリゲル軍の将であるジェロームと敵対し、離反する形でアルム達に従う事にした。ルドルフ陛下の言葉を信じ、アルムが本当に『バレンシアを救う者なのか』を見極める為に。ふと、アルム達と共に行く中で――妙に、心に残っているものがあった。

『やり遂げられなかった事を、やり遂げる為に』

記憶を失っている最中、頭の中に引っ掛かっていた言葉。だが――自分は、アルム達と共に戦う為に此処に居る。そんな奇妙な違和感を、拭う為に前を向く。
「どうしたの、ジーク?」
「いや、何でも無いよ――行こうか、アルム達の元へ」

今度は、自分が決める道だからこそ――失った過去で、やり遂げられなかった無念を、やり遂げる為に。





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