ニヴルヘイムの薔薇

*魔術師パロ
*ややグロい

優しき天使が、地を救おうと空を飛ぶ 人の手に届く高さを飛んだため 救いの天使の翼を、肉を、人々が手に欲しがり
最後は、一片の羽すらも残らなかった

血塗れた場所――天使がマリアに手を伸ばして救済を求めようとするステンドグラスは、真っ赤な血で染まっていた。赤いワインのような血であり、その血が流るる場所には、一人の人間がぽっかりと腹に穴を空けて死んでいた。其れでも、『何か』に必死で足掻いたような表情を浮かべていたのは何故だろうか――そう思った瞬間、傍に倒れていた菫色の髪をした男は、呻き声を上げながら立ち上がる。黒いマントに染まった真っ赤な血を払いながら、蝶を蝕む漆黒の衣装を着た少女を見る。
「貴方は、怖くないんですか?」
人間の死体の血を指でなぞり乍ら、金髪の少女は血をペロリと舐める。血は苦い――そう思っても、少女は菫色の髪をした魔術師を見た。
「ああ、怖くないさ――でも、失うのがもっと怖い」
「怖くない――そう思っても、貴方は綺麗な人です。綺麗な人を、今まで見た事が無いです。私の知っている綺麗な人なんて、ラスタル様以来なのですから」
少女はリボンを外し――菫色の男に抱きしめれられるように語り掛ける。

「貴方は、綺麗な人です。でも、何処か――恐ろしいです」

*  *  *

少女の話をしよう。少女はスラム街の生まれであり、例え老若男女赤子若者大人老人子供が死のうが関係なくても、必死で『生』に足掻く為に生きてきた。そんな矢先に魔術師の『ひげのおじ様』に拾われるように、色々な魔術の修業をした。『ひげのおじ様』から魔術師を司る第七家の一つであるエリオン家当主ラスタル・エリオンに引き渡される形で、魔術の修業を再び行った――彼女は、今まで見てきた人と違って――『きれい』だと感じた。その『きれいな人』を見るような形で、少女――ジュリエッタ・ジュリスが、生きている証なのだから。

エリオン家の館にて。ジュリエッタは蝶を生み出す魔術をしていた。その隣に居たのは――菫色の髪をした男だった。菫色の髪をした男は、顔に酷い傷を負っていた。ジュリエッタは男を見て、ブーツをコツコツと音を鳴らしながら、男に話しかける。
「随分と熱心なご様子ですね――『ヴィダール』」
ヴィダール。菫色の髪をした男――フェンリル殺し、オーディーン神の息子。鉄靴の主。とも言われる男の名前を呼んだジュリエッタは、ヴィダールに話しかける。
「丁度『傀儡魔術』の練習をしていた所さ」
「ラスタル様があなたを信頼しているのはいいのですが――どうして貴方は其処までして『ファリド家』に熱心なのか、分かりません。貴方と『ファリド家』の当主に、何があったのですか?」
「さあな」とヴィダールは答える。
其処にジュリエッタが生み出した蝶の現身が現れ、ジュリエッタは蝶を『食べた』。そんな彼女を見て、ヴィダールはやれやれと言った。
「少し、俺の部屋に来い――お前の体の体調を少し、調べてやるからな」
「変態ですか?女の子の体を触るなんて最低です」
「ラスタルの命令だ。お前の体の体調を少し、調べたいだけだと言っていたからな」
「…ラスタル様のご命令とあらば」

服を脱いで、露わになったのは火傷を負った背中。ヴィダールは体に障らないように、そっと調べるように見た。
「お前の体は綺麗だな」
「本当最低です。貴方って人は本当最低ですね。ラスタル様に言いつけます」
「まあ、そう言うな――だが、其処までして、ラスタル様を慕っているんだな」
「ええ、ラスタル様は私を――救って下さり、誇りでありますから」
「誇り、か…」
「何か言いましたか?」とジュリエッタは気が障ったように答えた。ヴィダールは「いや、何でもない」と言った。

*  *  *

「嘘だァァァァァァァァッ!」
嘘と夢と現。其れでも、お前を信じていたかった。信じられなかったのは、俺だった。もしも、願いがかなうならば、お前と一緒に居たかった。

「…ヴィダール?魘されているのですか?」
ジュリエッタは魘されているヴィダールの頬をそっと触れ、目を閉じ、涙を流している濡れている頬に垂れている滴を掬う。それを舐めたジュリエッタは「これしか出来ないのですが」と言い、そっと目を閉じた。
「――せめて、貴方の助けになりたいです」



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