ロマンシア

男は、全うな人生を歩く筈だった。
男は、部下と言う希望を得た。
男は、幼馴染と言う幸福を得た。
男は、妹と言う光を得た。
男は――友と言う闇にすべてを奪われた。すべてを奪われても、彼はあきらめはしなかった。彼は、すべてを奪われても、立ち上がった。

仮面の男――ヴィダールは、設計中のモビルスーツを見た。ガンダムヴィダール。北欧神話のオーディンの息子であり、フェンリルを打倒すと言われる神の名を模したガンダムである。そこに、グレイズアインのブースターが取り付けられている。ヴィダール――××××は、全てを諦めかけていた。全てを奪った男が、憎かった。けれど、憎み切れなかった。親友と言われた男を、止めるために此処に居る。だから――ヴィダールとして、生を得た。××××と言われた男は、死んだ。彼は、仮面を被り――アリアンロッド艦隊ラスタル・エリオンの側近としての地位を得た。これは憎しみか、それとも幻想か。一度は、友の操り人形としてなって、ずたずたに、残酷に、××××が殺されるくらいに凌辱された。
一度は、モビルスーツを見渡した部下に話しかけた事がある。火星の血が流れている。と言った青年は――自分が下した罪深き決断によって、哀れな姿になった。これはエゴだ。彼を殺したエゴイストとしての道化を被る為の仮面だ。
ぽつり、と呟く。
「マクギリス」
そう、彼はあの男の名前を呼んだ。自分を蹴落とし、地位を得た男。だが、今度は負けはしない。と思ったのは、過去の名残だろうか。それでも、操り人形だとしても――。

ヴィダールという男は、××××の名前を捨てた。捨てたのなら、一体何故、此処まで彼を駆り立てるのだろうか。そんな事はどうでもよかった――早く、彼を討つための――。





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