塔の上のラプンツェルに、一羽の燕が宝石を銜えてやって来た。
ある日ラプンツェルに、一羽の燕はとうとう力尽きて死んでしまった。
「アイン?」
ガエリオ・ボードウィン特務三佐。それが、俺が仕えるべき上司の名前。クランク二尉の為なら何だって手を貸す。それが、俺の存在理由(レーゾンデートル)。だが、どうしても俺は――最近、彼に惹かれるようになった。彼は、クランク二尉とは違うけれども、誇らしくて、火星の血を引いている俺に優しく接してくれた。
「アイン、俺のシュヴァルベ、お前にくれてやる」
「えっ…?」
「えっじゃないだろ。お前のグレイズでは、到底――あいつ等に敵う訳がない」
「…ですが、自分に過ぎたことです。自分では、特務三佐の機体を乗る訳にもいかないでしょう――増してや、火星の血を引いている俺には…」
「…お前の夢、なんだろ?打倒鉄華団。その夢と、俺と一緒に叶えよう」
「……ボードウィン、特務三佐」
そうだ。空をかける燕であればいい。ボードウィン特務三佐は、あのキマリスという伝説のガンダムフレームに乗る――一緒に願いをかなえよう。一緒に、夢をかなえれば――きっと、いつか…。
…いつか?そんな筈は無い。だって、俺は、ボードウィン特務三佐を庇って――死んでしまった。死んでしまったのに、どうしても心地良い夢を見る。燕はナイフに刺さって死んだ。燕は、俺。だけど、燕であっても、もっと自由に空を飛びたかった。燕で、居たかったのだ。けれども、もう一人の悪魔が俺に囁く。
「復讐を叶えてみないか?」と。
『ガエリオ特務三佐!』
悪魔だと笑われてもいい、それが、俺の存在理由(レーゾンデートル)。けれど、燕は空を飛べずに死んでしまった。けれど、それで良い。
『クランク二尉!やりましたよ!貴方の機体を取り戻しました!』
悪魔は――俺。燕は、悪魔になった。
悪魔になって、それから――それから?
ラプンツェルは、燕の姿をした悪魔に気付かなかった。
それは、一振りの願いに似ていた。