月の揺り籠

*アインが生存していたら。のIF
*某インティゲー絡みのオリキャラ在り
*ややサイバーパンクっぽい
*本当にスイマセン

――命に別状は?
――無いよ?まったく、ぼくが治療をしなければ命を落としていた事は感謝しないといけないよね。
――は、はぁ…しかし『博士』、回収したコックピットからの阿頼耶識システムの実験体は?
――サイボーグ手術をする。手配しておいて。
――は!?
――ぼくの命令なんだってば。貴重な阿頼耶識システムの実験隊を、放っておく訳にはいかないしね。

意識が夢現の間、少女らしき声と、その助手らしき男の声が聞こえた。だが、阿頼耶識システムの実験体…アイン、アインなのか?アインは、無事なのか?
答えがわからないまま、意識は薄れていった。

「…ここ、は」
ベッドで目を覚ますと、広い空間が広がっていた。真っ白い部屋、丸くて白いテーブルとロングソファ、白い戸棚に広い窓にはビルが立ち並んでいた。
自分は、死んだ筈では?マクギリスの攻撃を受け――死んだ筈なのでは?と困惑を隠せない。片腕を見ると――片腕は無かった。代わりに、義手があった。どうやら、あの一撃で腕を失ったらしい。じゃあ、自分を助けたのは一体――まさか、マクギリス?
「マクギリス……!」
カルタの思いを蹂躙し、アインの誇りを穢し、アルミリアの愛を利用した、ガエリオの――元、親友。彼が自分を助ける筈がないだろう…が、プシュウ。とドアから現れたのは――翡翠の髪をした白衣を着た小さな少女だった。
「あ、起きた?」
「…お前が、俺を助けてくれたのか?」
「そうだよ?君、凄く血を流していたから手術をする手配が大変だったんだよ〜、そう言えば君は、あの悪名高いガエリオ・ボードウィン元特務三佐なんだよね?」
「あ、ああ…で、俺の経歴は今どうなっているんだ?」
「うーんとね、人体改造を行ってエドモントンにモビルスーツを送り込んだ凶悪な犯罪人となっているよ」
「…そう、か…」
やはり、腐敗の象徴としてガエリオ――自分の名前を挙げられているのだろう…が、この少女は、どうも自分を収容所に送る気配は無いらしい。
「経歴では死んでいるらしいけども、ぼくは裏社会で有名な…ううん、ぼくの事は「博士」って呼んで良いよ。どうせ、意味は無いし」
「意味は無い?どういう事だ?」
「…君、アインって人の名前を呼んでいたらしいよね。彼なら今――」
「…教えてくれ、アインは今、どうなっているんだ!?アインは…無事なのか!?」
「せ、せっかちだなぁ、この人は!今僕が手術をしておいたから、命に別状は無いんだけどさ!…でも、あまりにも脳にダメージを負っていたから、サイボーグ手術をするしか、方法は無かったんだよ」
「サイボーグ、手術…?」
かつて、アインが自分を庇って機械の体をすると問われた瞬間、「機械仕掛けの化け物にする気か」と言った。が、この「博士」は、アインをサイボーグ手術で、命を救ったらしい。
「…ありがとう」
「なら、よろしい」
だが、一体何故、彼女は自分達を救ったのだろう?その謎は、分かりはしなかった。すると「博士」は、すごくキラキラした目で俺を見ていた。
「…君、あの有名なセブンスターズの一員なんだよね!ぼくに聞かせて!セブンスターズの話を!」
…予め、セブンスターズについてを話したが、「博士」は、「なるほど〜」とうなずいた表情をした。
「何故、俺を助けた?」
「…んーとね、たまたま通り掛かったぼくの研究所に所属していた人が、破壊されていたキマリスを見つけてね、大掛かりで君とアインを回収した訳。アインって人の方はコックピットごと回収したんだ。ギャラルホルンに気づかれるまえに。今頃血眼探しているんじゃない、貴重な阿頼耶識の実験体を」
「で、此処は?」
「此処はぼくの家にして研究所のとあるビルの一室だよ。このビルはサイボーグやアンドロイド開発を行っているあるグループの一角の本部なんだ」
「ああ…」
どうやらこの国は、モビルスーツを持たない代わりに、サイバネティックス技術を持ち合わせているらしい。「博士」は、俺を興味深い目で見ていた。
「そういえば、君に力を貸してもらいたいんだ!」
「…で、何をすればいいんだ?」
「何でも屋をしてくれないかな?」
「何でも屋?俺に何が出来るって言うんだ?」
「君、指揮官として有能。あのアインって人をサイボーグにしたんだけど、どうも君の命令以外は聞かないらしくてね。だから、何でも屋として君の力を貸してくれないかな?」
――何でも、屋か、
――もしかしたら、マクギリスの手がかりを掴めるのかもしれない。
「分かった、手を貸そう」

――これが、数日前の出来事なんて信じられない。

――「博士」からの、依頼とは麻薬を密売している列車の破壊だった。
「…特務、三佐?」
気づけば、とある列車に侵入した――サイボーグと化したアインが、通信で語りかけて来た。
『アイン、お前を…再び戦場に戻した俺を、許してくれるか?』
「いいえ、問題はありません。俺は、貴方に感謝をしています。今度は、クランク二尉の敵討ではなく――あなたの手足となり剣となれば、何も問題はありませんから」
――そう、か…。

サイボーグ手術をして、一命を取り留めたアインは、サイボーグの能力と、自身の能力を持ち合わせて超人と化した。それは、ガエリオが望んだ決断ではない。罪深き、決断なのだから。罪深き決断をしたのは、ガエリオ自身だ。だが、悔やむ事は無い。何故なら―‐全てを奪った男への、答えを問い合わせるための手段でしか無い。

二振りの斧を、軽々と操るアインは、銃撃を行うサイボーグ兵士に攻撃を加えた。斧で腕や足を切断される者たち、拳で首を圧し折られる者もいる。
――今までのアインの戦い方は、どこか静かな攻撃だった。だが、今のアインは――ただの暴力でしか過ぎない攻撃をしている。
兵士を全滅させた後、ガエリオはアインに通信をした。
『――そこに、麻薬密売のコンテナがあるだろう。…破壊してくれ』
「分かりました」
アインはグレネードを持ち、それをコンテナに投げ――コンテナは見事に破壊された。辺りに広がるのは、火の海である。そう、分かっている。アインは、変わってしまった。けれど、変わってしまったことを受け入れなければ、何も変わりはしない。

帰還したアインは、直ぐに技師とともにメンテナンスルームに入り、ガエリオは自分の部屋でアインのメンテナンスが終わるまで宙を見ていた。

――彼女の幸せは、私が保証しよう。

「マクギリスっ…」
アルミリアの愛を、カルタの想いを、アインの誇りを、一体何だと思っているんだ。ガエリオは、嘆く事しか出来なかった。

俺は、特務三佐の手足であって、番犬であり、剣でもある。「博士」から話を聞いた瞬間、驚いた。まさか、MSを手足で動かす自分がサイボーグ化して――人間離れをしていたとは思わなかった。けれども、彼女の話を聞いた瞬間、自分はまだ死ねなかった。あの罪深き子供を殺すよりも、最優先にしてほしいのは――ガエリオの思いを無駄にするな。と彼女に論された事。けれども、俺はまだ信じられなかった。クランクの「借り物の言葉」に妄信された俺が、ガエリオ特務三佐の言葉を、信じる事になるとは。

「じゃあ、ぼくは少し席を外すから、君はガエリオの所に行ってくれないかな?」
「博士」はそう言い、席を外した。俺はガエリオ特務三佐の所に行った。
ガエリオ特務三佐は、ベッドで寝ていた。ベッドに寝ている彼は、瞼を閉じながらスヤスヤと眠っている。シーツに包まっているが、最近、此度の任務が忙しいから疲れて眠っているのだろう。と思った。乱れたシーツを整い、ふと、彼の寝言が気になっていた。

「マクギリス…」

ファリド特務三佐。俺の誇りを利用し、ガエリオ特務三佐を裏切った人。きっと、幸せな夢を見ているのだろう。と思った。けれど、それが悲しいと感じたのは、一体いつ頃なのだろうか。ふと、俺は、シーツに潜り、彼を抱きしめる形で寄り添うように眠った。



「…アイン?」
ふと、起きた瞬間にアインが抱きしめる形で眠っている。どうやら、自分を心配してくれているらしい。全く、俺を心配するのは変わらないな。と思った。
眠っているアインを他所に、起き上がった俺は、「博士」の元へと行った。

「…あ、起きたの?」
「お前こそ、一体何時帰ってきたんだ」
「先ごろ」
「博士」は、俺を見て、キョトンとしていた。が、俺はある話に切り出した。アルミリアはいったい、何をしているのだろうか。マクギリスは、今、何を考えているんだ。とか。
「…マクギリスって人は、ギャラルホルンの改革に乗り出している。アルミリアって人は、分からない…君の妹?」
「ああ、妹なんだ」
「…妹、なんだね」と「博士」は言う。
「…この話、アインには内密にしておいてくれないかな?」
「…?何でだ?」
「この話は――内密にしておきたいんだ。「MSを手足のように操る――それが、アインの本来の姿」って、だいぶ前に、君は言っていたよね」
「…ああ」
「アインは――あんな化け物を操る方が、本来の姿なのかもしれない」
空を自由に飛び回る燕よりも、世界を破滅に追い込む悪魔の姿が、よっぽどお似合いだと、「博士」は言う。だが、ガエリオは反論をした。
「アインは――俺をかばって、命を懸けて、俺を守った!シュヴァルベ・グレイズを譲ったのは、上官の敵討ちの為に、夢を叶えるために、そして、俺を信頼してくれた証なんだ!あんな――黒い悪魔に乗せるのは、御免だ…それに、もう…あんな悪魔に、なるのは…」
「…ごめん、ぼくの言い方が悪かった」
機械の体となった彼は、もう二度と、空を飛ぶ事は出来ないだろう。翼を失った、燕のように。ガエリオは、彼を飛べなくした原因が――自分にあるのだと渦巻いた。

「…ガエリオ特務三佐?」
ガエリオが部屋から帰ってきた瞬間、アインはガエリオがやつれているのが分かった。
「どうなされたんです?」
アインは、ガエリオの頬を冷たい指で這う。
「アイン…俺は、お前をこんな姿にしたのを、許してくれるか?」
「…っ、何を…」
それは、後悔だった。確かな、後悔と――悲しみだった。
「俺は、お前を――上官の体に戻してやりたいと考えていた。けれども、俺は、お前をこんな機械仕掛けの化け物の姿にしてしまったのを――ずっと、後悔していた!」
そう、あの時、火星の血を半分引いていると告白していた時、悲しそうな笑顔をしていた。その思いに、ずっと気づけなかった。
「俺は――お前を死の淵に追い込んでしまった!俺は――俺は!」
「ガエリオ特務三佐」
ふと、アインはガエリオを抱きしめた。

「こんな姿になった事は、後悔していません。だって、これは、俺が望んだ事なんですから」

望んだ事。
「確かに、空を自由に飛べなくなりました。けれど、後悔はありません。俺は、あなたの手足となり――剣なのですから。けれど、あなたは――ずっと、俺の事を考えて苦しんでいた。俺は、そんな貴方の思いに気付けなかった事を――後悔していたんです」
でも。とガエリオが言うと、
「俺は――あなたを信じてよかったです。許してくれますか、ガエリオ特務三佐――いいえ、ガエリオ様」
ずっと、止まっていた涙が、溢れた。それは、きっと、許されない罰なのだろう。けれども、その罰を――アインと一緒に受け止めれば、きっと大丈夫。と信じていた。
「泣かないで下さい、俺は――此処に居ます」

ああ、そうだ。一緒に、歩こう。
そうすれば、何も、問題は無いから。




補足設定
『博士』
某インティゲーのもう一人の主人公の父親の友人。最年少でアカデミー賞を取ったが、表舞台から姿を消した。普段はビルの一室で過ごしている。姿は某電子の謡精そっくりであり、彼女をモデルにしてあのバトルポッドが作られたという。好奇心旺盛で少し小生意気な性格。



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