Canary

*ねつ造ばっかり
*モブ少女が出張っています

この街に潜んでから10日位経った。小雨が降りしきる街で、機械技術が発達したこの街は何処と無く、『向こう側』を思い出させる。パシャパシャと水溜りが跳ねる。ふと、気付けば――。
「……?」
一人の少女が、此方を見ていた。何だ。と問い掛ければ、少女はじっと自分を見つめていた。
「貴方、アンドロイド?」
「そうだが――自分には関係ない問い掛けだ」
「でも、貴方…追われているように見える。私の頭の勘が、分かるもん」
ふと、少女は重たい自分の手を引いて、歩いた。
「私の家に来て」と。

コーヒーを淹れ、自分が座るソファに少女は持って来た。
「はい、コーヒー。お兄ちゃんから教わったけど、まだまだお兄ちゃんの腕には敵わないの」
「その『兄』は今何処に?」
「うーん…ちょっと遠くへ行っているから、まだ帰って来ないの。でもね、お金が必要なの。私の病気の手術の為にって」
「『手術』?」
「うん、私の病気はね、心臓の病気だって。心臓が悪いから、病院で診て貰うんだって。でも、お金が足りなくてね、遠くで出稼ぎをしているんだって。バウンティハンター…?だったっけ。それをしてお金、稼いでいるんだって」
「…バウンティハンター………W…」
「えっ、今なんて言ったの?」
少女は白いワンピースをはためかせ、自分に困惑そうに赤い瞳を濁らせて見つめていた。バウンティハンター、W00、彼は元々、自分達Wシリーズのプロトタイプとなった源型に過ぎない。ふと、少女は「変な人」と言った。
「でも、私、いつかこの街だけじゃない、自由に外を歩いてみたいの。外じゃない…此処じゃない、何処かへ!」
少女はふふっとほほ笑むが、少し咳をした。少女が微笑んだのに、すこし苛立ちを隠せなかった。だが、少女が見た景色は、紛れも無くあの方の――。

「…もう、行っちゃうの?」
「ああ」
「行かないで…とは言えないけど、だって貴方、外の人だもんね。引き留める事なんて、出来ないよ」
一歩、外に踏み出すと――少女は「待って!」と言った。
「きっと、また…また、会えるよね!私、待ってるよ!いつだって、何時だって!」
待っているから!と言う少女の耳を貸さずに、自分は――目的の場所へ向かう為に外に出た。

*   *   *

「コードATA、発動…!」
ああ、そうだったんだ。自分は――彼女の元へ帰りたかっただけだったんだ。あの方の優しさ、あの方の忘れ形見である彼、あの方に、ただ会いたかっただけだった――。少女が言っていた、『此処じゃない、何処か』。そう、か。ただ、此処じゃ無い何処かに行って――あの方の、元へ行きたかった――。


「…ねえ、お兄ちゃん」
少女が、心臓の手術をした後に目が覚めると、部屋の窓に一匹の小鳥が力尽きて倒れていた。それを拾った兄は、唯純粋に、少女の身に何があったのか直ぐに察したが、首を横に振った。
「…この小鳥、死んでいるの。かわいそう」
金糸雀は鳴かない、けれども、純粋に――もう、戻って来れないかもしれない。

少女の目には、あの日の光景が写っていた。



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