あなたがもうすこしおろかであったのならよかったのになあ

利き手を骨折した。

原因は異形…即ちデーモンによる戦いの最中、不意打ちで刀を使う利き手がばきり。と嫌な音を立てながら骨が折れる音がした――が、その際に自分が足癖の悪さを使って刀をデーモンの頭に目掛けて足で投げた時――気が付けば刀が頭に突き刺さり、絶叫して絶命するデーモンの姿と、倒れ伏す自分を見て急いで駆けつける彼女の姿だった。


利き手に包帯を巻かれた時、自分は彼女達とは無関係な筈なのにああ大事にされているんだなと気付いた。「聖女や僧がしばらくしてやって来るから、暫く安静にした方が良い」と言う彼女が自分の利き手に包帯を巻く姿を見て、彼女から見た自分は恐らく、命知らずか――それとも――自分を大事にしているが故の行動か。
「貴方が命を失ったら、悲しむ人が居るかもしれない」
居ないのに。親も主も、失って見捨てた自分に、悲しむ人なんている訳が無いだろう。と、顔を見上げれば彼女は不安そうにこちらを見つめていた。
「…すまない」とそんな言葉をかけるしかない自分に、彼女は「謝る必要なんてない」と自分の片手を握り締めた。
「貴方が私を死なせたくない。失いたくなんかないっていう気持ちは、痛いほど分かる…けど、自分の命なんてどうでもいいって言うのは、それは嫌だ」
彼女は愛されている存在だ。民も騎士にも、獣にも――自分は彼女に複雑な思いを抱いているのが分かった時は、いっそのこと死んでしまえばいい。と思える時があった。けれど、彼女もこの思いを抱いている筈だ。けれど、彼女はそれを押し隠すように自分の手を握り直した。
「…少し、寄り添っても良いだろうか」と自分がそれを言うと、彼女は少し顔を真っ赤にしながら、わかった。と息を吐くように、隣に腰掛ける…微睡に落ちるように、ふっと力を抜くように…寄りかかった。

自分と彼女は立場や行く末が何もかもが違い過ぎる。だから遠ざけるふりをして、彼女が笑う姿がとても眩しかった。失いたくないと言う想いを押し殺してきた。けれど、それは彼女も同じで――自分を失いたくないからこそ、彼女自身は犠牲になるべきだ。これ以上災厄が彼を巻き込む前に。と…だけど、自分はそれ以上に立場も何もかもを捨てて、大事なものを持ってどこか遠くに逃げよう。と言う願いを切望していた。悲しかったのだ。

自分は彼女を失いたくない以上に、立場も何もかもを捨てて生きて欲しい。と言う浅ましい願いを抱えているからこそ――自分自身に矛盾を抱いてまで、それを渇望しているから。

title:膣



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