蝕む

閉じられた世界から外に出て、自分は地獄を知る。現実を知れば、彼ならきっと分かって貰えるだろうと思った。けれど、現実はいつも地獄で、世界に絶望した彼らもこんな気持ちなのだろうか。と少し、考えたことがあった。けれど、自分は―――正しい筈だ。なのに、苦しいとは思えない。

「これで良し、と」
負傷した腹に、包帯とガーゼを巻き付けて、廃墟の一室で横たわったスターセイバーに治療を施していたデスザラスは、よく負傷をする男だな。と内心思った。自分を見返りず、敵を殺し続けている男であるが、ある時不意打ちを受けて致命傷を受けた。何とか自分が彼を抱えて誰も居ない基地の廃墟に運び、応急手当てをした。これで何とか重傷は避けられたが、ウォーワールドの医療部隊に連絡をした。後は彼らが到着するまで持ちこたえるだけだ。スターセイバーは治療が終わったと安堵のため息をつく。デスザラスはそりゃどうも。と返した。
「一つ、聞いていいか?」「どうした?」「お前、いつもこういう事が起きてると、一人の時はどうしてるんだ」
スターセイバーは黙っていた。恐らく、簡易治療を自分で行っているとすれば――蓄積した傷が身体中にかなり多い上に、限度がある…となるとすれば、デスザラスの部隊を頼るしかない。
「…サークルオブライトは学者や科学者が多いと聞いたが、お前のような宗教学しか興味がない戦闘狂は初めてだ」
スターセイバーはデスザラスの言葉に黙っていた。そして、口を開く。
「私も…お前のような男は初めてだ。クリスタルシティでは相当自分は浮いた存在だったからな」
自分の殺気に寄り付かない存在は、あの街には多かった。戦闘を好まない彼らは、スターセイバーを怖がっていたり、彼の性格に挑発され、口論や殴り合いに発展することが多かったから。その上、クリスタルシティの長たるダイアトラスと言い合いに発展する事も多い。余程嫌われ者の性格であろう。
外の世界に行って、デスザラスと言う男は――可笑しな存在だった。戦争を肯定し、戦闘狂のような異質な存在。自分と戦いたい。と自分に執着する。
「……お前は、私の事が欲しいのだろう?優れた人材で、逸材だと思っている訳でもない――まるで、ダイアトラスのように共に行こう。と言わん素振りの口ぶりだ」
「…ああ、そうだよ。お前は俺と共に来るべきだ。だけど、まだそういう時間ではない。お前は、俺の事を信じない――寧ろ、ダイアトラスと会うべきだろう?」
デスザラスは答える。お前はやるべきことをやるべきだ――そして、自分とまた会おう。戦争が終わった頃に、再会しよう。
スターセイバーは何も言わなかった。此処まで優しい口ぶりをするなんて、どういう理屈だろうか?と内心考える。

白い髪を、さらさら撫でる。デスザラスは彼の美しい髪を、鉤爪の指でなぞっていた。誰もが畏怖する存在であり、地獄を生み出す狂信者である。異教徒は死ぬべき存在か?否――自分の為に戦え。そう思えたら、良かったのだろうに。現実は、こうもうまくいかない。白い素肌をさらさら撫で、こう見えても綺麗な髪をしているし、美貌を拝められる位に気高い剣士なのに、もったいない。と――デスザラスは、白い髪をくるくると指に回す。
包帯が巻かれたお腹をさする。出血はだいぶ収まったようだ――あとは、ウォーワールドでちゃんとした治療を受けるだけだ。デスザラスは、ふぅ…と溜息をつき、スターセイバーの横に座る。ふと、眠気がやって来た。だいぶ疲れが溜まっているだろうか、スターセイバーの横に凭れ掛かる。
「おい、私の横で眠るんじゃない―――眠ってしまったか」
けれど、隣で眠る彼の姿を見て…こういった時間も、悪くはないと思った。孤立しがちだったあの頃と比べれば、少し楽になれた気がした――スターセイバーはデスザラスの腕を握り締め、静かに、目を閉じた。



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