月見酒

「やはり、月が綺麗な時に飲む酒は美味しいよなぁ」
デスザラスはそう言い、酒をグラスに注ぎこみながらスターセイバーの方を見上げた。月が綺麗な時は酒を飲むのが一番だ。デスザラスとスターセイバーは、戦場の跡地で酒を飲んでいた。
ビクトリーレオがぐるるん。とスターセイバーのソファ代わりとなり寝転んでいるが、対するデスザラスはタイガーブレストとイーグルブレストを自由に手放し、遊ばせている。
パートナーに対する扱いがこうも違うとは――戦場での経験はスターセイバーの方が上だろうと思っているが、デスザラスも戦場での経験は浅い訳ではない。殺した数の多さは忘れるほどに数え切れない程血祭りにあげて行った。スターセイバーもデスザラスも、人殺しの存在であることに変わりはない。軍服のコートを脱ぎ捨て、上半身は何も来ていないが、対するスターセイバーはラフな格好で黒いシャツとロザリオだけを身に着けている。生活の習慣も違い過ぎた。スターセイバーは酒を飲んではいない――プライマスを信仰する者は、酒を適度で摂取すべし――そういう宗教上の問題らしい。最も、彼が酒を好まないって言うのもあるのだが。
「貴様と居ると飽きないな」とスターセイバーは言った。デスザラスは酒をもう一杯飲んで、そうだな。と言った。
普段は敵対している関係であろう、がしかしこの日は奇妙な事に、二人とも戦う気はないらしい。何とも奇妙な人間関係だろう。と誰かが言うに違いないのだが――周りの人間関係などどうでもいい事であった。彼等のどちらかが死ねばこの人間関係は終わるのだが。
白い髪を垂れ流し、その白い髪を素手で引っ張るデスザラスに対し、スターセイバーは「痛い」と言った。
「お前、随分と髪の毛が痛んでいるんだな。俺んところでシャワーでもするか?」
「…嫌だと言ったら?」「無理矢理でも連れて行く。どうせお前ひとりでどっかほっつき歩いてその辺の敵をぶっ殺しに行くんだろ?俺知ってるからな。血まみれで血がこびりついた服とか髪を洗うの大変だったからな。俺がひいひい言う羽目になるんだからな」と図星のように言われた。悪かったな自分がそんなバカな行為をする存在であって。これが他の相手だったら即効剣の錆と化していた。デスザラスはスターセイバーの白い髪をぱっと掴んだ後に、手を離した。ぱらぱらと白い髪が月明かりに照らされて散らばった。
「戦争で誰かが死ぬ。お前んところの騎士か、俺達ディセプティコンの誰かか、それともオートボットの連中か――案外、早くこの戦争が終わりそうだな。と俺は感じる事がある。けれど、オートボットの薄汚い理想を見ていたお前にとっては違うだろう?」
例えば、あの男の夢見た理想のごとく。曰く、ダイアトラスやショックウェーブが夢見た黄金時代のように。
「ああ、そうだな…早く、戦争が終わればいい。なんて事はある訳が無いだろうに」
デスザラスは、スターセイバーと居る事が一番の楽しみだと思った。早く彼を八つ裂きにしたい。殺したい――なんて薄汚い理想を掲げているが、スターセイバーも同じ考えだった。

月が、夜空を照らしていた。なんてことのない夜だった。



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