名も無き歌

私は貴方の傍に居られればそれでよかった。貴方さえ居れば、何も要らなかった。

白い髪をさらさらと撫で、ごつごつとした、弾力の強い指が髪の毛を一本摘まみ、ダイアトラスは「綺麗な髪だな」と言った。本を読んで椅子に座っているスターセイバーは「そうだろう?」と言った。評議会の演説から帰還したばかりであろう――スターセイバーはそんなダイアトラスの姿を見て、どうだったか?と問い掛けた。
「ショックウェーブがプロテウスに対して拳で殴る暴行沙汰を起こしてな…少しばかり頭を冷やせと言ったのだが、あいつは…全く…」
ああ、彼の知り合いの…と苦笑した途端に、ダイアトラスは「彼の所に行くなよ?全く、スターセイバーを親戚の息子のように可愛がるのはやめろと…」と再び愚痴を吐いた。そして彼はスターセイバーに髪留めを差し出す。
「これは?」
「綺麗な髪をしているが――少しばかり、長髪だから面倒臭いと感じる事もあるだろう。髪をまとめれば、違った姿に映えるし、何よりも姿を整える事も大事だと思うぞ」
「全くお前は…そのおせっかいな所もショックウェーブ議員に対して人の事も言えないと思うんだが?」
そんなやり取りをしているも、全部愛おしく思えてきた。その、筈だった。

「――ダイアトラス議員が撃たれた――ショックウェーブ――元議員――」
「医療班は、直ちに―――――」
スターセイバーはダイアトラスの病室に急いだ。病室に入ったらベッドに居座っていた彼を見て安堵したが、彼は黙ったままだ。
「ダイアトラス――ショックウェーブに撃たれたと言うのは本当か?」
「…ああ」
そうだ。と答えるだけだ。何故、彼がこんなことを?と答えたいと願った。が、ダイアトラスは何も言わない。すると、彼はぽつりと答えた。
「スターセイバー、大事な事がある」
「どうした?何かあるんだったら、言ってくれないか?」
ダイアトラスは――無言のまま俯き、前を向き…答えた。

「サイバートロン星を出る」


当時、自分には分からなかった。彼のあの言葉の意味を。そして、クリスタルシティに行って気付いた事がある。全ての希望が絶たれたのだ。そして、他者を信頼する事をやめた。自分の、掌さえも。その手に気付いてほしかったのに、信頼するのをやめた。
どうして?と願えない事がある。だから、彼は私と共に歩んで欲しかったのだ。それなのに、閉じた世界に籠るだけの人生だ。誰かが死ぬ事で、彼の心は壊れて行った。私の心も、歪んでいく。
そうして、逃げるように街から出て行った。彼が居ないと、自分の意義なんて意味が無いのだ。何も要らない。ただ、貴方だけが存在意義だった。

「何を考えている?」
再び、目を開く。白い髪を乱暴に引っ張り、からん、とグレートソードが手から零れ落ちる。殺し合いの最中だった。今日も又決着がつかなかった。口から血が流れ落ち、乾いた唇から何も、無いと答える。目の前に居る敵軍の指揮官は、自分とは殺し合いを望みたい。と願う男だった。彼は自ら流れる血を、自分の口に突っ込んできた。その赤い血を、鮮血のように赤い舌でざらつくように舐め取った。指揮官――デスザラスは、眩暈がした。こいつが、血塗られた勝利を飾るのにふさわしい存在でありながら、このまま死なせるには勿体ないと笑った。可笑しい、自分らしくはない。そして、自分はまた、不自然にほくそ笑んだ。

自分は、貴方さえ居れば良かったのに――彼は、自分を愛している。そう、歪んだ愛で。殺したい程願う、私を神と崇める。

もう、お前なんか――要らない。



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