あんたへ、

その手を、

誰かの為に生きられる。誰かのような立派な存在になりたい。そんな風に生きられたら、ちっぽけな夢だけど、理想を掲げたら。自分にはそういう事が分からなかった。分かりたくは無かった。それが自分を保つ言い訳にしかならないのだと思っていたのだから。
彼は、自分の為にスパークを散らした騎士の様な、誰かを守れたら、誰かを救う事が立派な騎士になりたいと思っていた。ディセプティコンではなく、オートボットだから。それが何時か、夢を果たせられたとしたら。と自分にそう言っていた。
けれどあの時、自分は彼に手を差し伸べなかった。自分の夢を掴め。好きなように生きれば、何時か夢は叶う。そう言い訳をしていたからだ。けれど、それが違うのだと思った。ルナ1のファルマの姿を見て、自分のような立派な医者になりたいと願った彼に手を差し伸べていたら、彼は今でも、この場所に立っていたのだろうか。
けれど、ファーストエイドに重荷を背負わせてしまった事も、バンブルビーがスパークを散らしてしまった事も――ローラーとショックウェーブ、そしてオライオンに何もしてやれなかったことに後悔していた。
そしてメガトロンの贖罪をするような生き方をして、悟ったのだ。自分には彼に手を差し伸べる権利があるのだ。
彼のような立派な騎士でもなく、嘗ての残虐な殺しをする指揮官でもなく、自分は自分であって欲しいと私は思う。けれど、誰かを救う為に自分の命を犠牲にする彼を、見ている訳にはいかない。自分を犠牲にして誰かを救うなんて、あってはならない。例え誰かが彼を咎めようとしても、咎める義務はありはしないのだ。
もう二度と、ファルマやバンブルビー、ローラーを救えなかった悲しみを繰り返してはいけない。自分が「オートボットやディセプティコン問わず平等に手を差し伸べる心優しい医者」ではなく、自分自身のけじめとして、彼の生き方を肯定する為に、彼を助ける。生き方なんて誰かから指図されても、自分自身で生きる権利は確かにあるのだ。過去は戻らないし、時間は巻き戻せない。誰かが欠けて前に進むなんて、自分には納得いかない。騎士でもオートボットでも、ディセプティコンでもない、自分自身の生き方をして欲しいのだ。
これ以上、同じ過ちを、悲しみを、繰り返してはいけない。自分は前に進む。彼が待っている。彼が自分自身のけじめをつける為に、前に進む事を望んでいる。
それが自分のやれる事だ。決して誰にも指図される訳にはいかない。


憧憬

「しかし、ロディオン警察の人達が此処に屯っても大丈夫なんですか?」
目の前に居る坊主ことスキッズはそう言い乍らも、休憩中で椅子に居座っている自分に問い掛けた。
「オライオンの付き添いで来てやったんだ。それにあの議員と会話している最中だから邪魔しちゃ悪いだろ?」
とそう軽々しく返すと、「は、ははあ」と惚けた表情で返した。するとスキッズは俺を見上げ、何かを言おうとしている表情だった。
「…その、警察である貴方は、普段は何をしているのですか?」
「あー…それは、サポートだな。電子ハッキングとかオライオンのサポート…まあ、拳で大抵の犯罪者の奴らはぶん殴って黙らせるしな。後は、彼の相談相手?」
しまった。警察なのにアカデミーの彼等にペラペラと話して大丈夫なのだろうか。この後アカデミーの経営者であるあの議員に何て言われるかたまったもんじゃない。するとスキッズと、丁度休憩室に入ってきたグリッヂとかいう生徒から「凄い!」「すげぇよ!」と言われてえ?と困惑したまま彼らの素性が語られた。
「…俺は気に食わない議員の教え子だからと、たまに痛い目を見る事があります」
「アウトライヤーだから、エンピュラータを受けたんだよ。まぁ手も顔も戻れないけどな」
つまり、普段の当たり前の生活がままならない状況だったと言う。こいつらは本当に当たり前の生活が出来ないんだなと思った。
「俺だってあんたらが羨ましいと思える。不思議な能力を持っている、そんな超常現象が使えて一種の憧れじゃないのか」
正直テレビ番組の見すぎじゃないかとオライオンに言われそうだが。そんな力があったなら警察の厄介事を一気に解決出来る。と思うが、彼等の返答は違った。
「いいや、そんなものがあったとしても厄介事しか起きませんよ。力が暴発するし、狙われるし、貴方のような人が羨ましいんです」
「そうだよ、嫌な事ばかりだぜ」
当時、彼等の言葉には「何でだ?」と思ったが、その答えは後々知る事になる。


「どうしてこうなってしまったんだろうな」
スキッズの遺体を見て、自分はそう呟く。グリッヂ――正確にはターンが、彼を殺したらしい。目を覚ました矢先に、あまりにも受け入れ難い事実だった。
「グリッヂ、本当にお前は俺が羨ましかったんだろうな…普通でいられる俺の事が。だから俺と同じ大型機に改造志願をしたんだろ。すまないな、あの時まともに答えられなかったんだ」
だがな、と俺はこう呟いた。

「俺は、お前とスキッズが殺し合いするなんて光景が、一番望みたくなかったんだよ」



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