狂気沈殿




その狂気を突き動かすのは――悪意。

三位一体――攻防一体!アンドレアスは、その攻撃を次々と受けていた。
「…っ!馬鹿な…!黄金聖闘士が束になった処で…この私が…!」
だが――異変は、何処ともなく、訪れる。
「また、あの時の――!」
アイオロスに貫かれた――弓の一撃を受けた目が疼く!これは、一体…!?
「射手座の矢が霞めただけのこの傷は一体――まさか、あの時免れていったのは、単なる囮…!?奴の放った矢は――私の左目を、捉えていただと!?」
有り得ない、ありえない、有り得ない――絶対に!
「サガ、ムウ――どうやらアンドレアスは…あの傷によって、力を出せぬと見える!」
「今こそ奴を倒す勝機!」
童虎と、ムウの連携攻撃を放ち――アンドレアスを追い詰める。そして、止めの主役であるサガは――怒りに隠せない表情で語る。
「我等――女神の黄金聖闘士の魂を冒涜した報い――その体で受けるが良い!」
ギャラクシアンエクスプロージョンを放ち――アンドレアスを追い詰める…が、童虎はその生命力のしぶとさに「何と、まだ息があるか」と驚くばかりだ。
「射手座め――死して、尚この私を欺き続けていたとは…!」

そして――闇の胎動が、生まれた。

「な、何をっ…!一体、何をなさると言うのです…!?まさか…!?」
ムウは、突然のアンドレアスの様子が急激変化したことに驚いた。嫌な予感がする――この、寒気に似た雰囲気は…?!アンドレアスは、左目から――黄金の矢を『抉り取った』。
そして、へし折った――いや、アンドレアスとは、言い難い――その、闇の胎動の正体は…。

『人間の分際で――よくも、此処までやってくれたものだ』

神の声が、聞こえたと言ってもいいだろう。しかし――それは、悲劇の序章か、喜劇の序章か…?いいや、至高の恐怖劇の始まりだと思っても、過言ではないだろう。
『思い知るが良い…お前達が、誰を相手にしているのかを!』
その狂気にも似た――悪夢が、始まろうとしていた。
「あれは…オーディーン!?」
「いや、違うな…」
「…では、一体奴は…!?」
「アスガルドに巣食う邪神…」

――そう、神話ではトリックスターと言われ、神々を冒涜し…欺き続けた神。

「恐らく今――あの邪神が奴の体を飲み込もうとしておる。即ち――」
「倒すなら――今!」
ガーネットの髪が――アメジストの髪に染まる。そして、虚ろな目を持つ男は…語る。
「いかん…気をつけろ!」
アンドレアスは、次々とムウとサガを葬り――童虎の一撃を、指一つで防いだ。まさか――神の領域に達したと言うのか!?
「何と言う…スピードと…パワー!」
童虎は、ユグドラシルの根に飲み込まれそうになった。サガは、それを見上げる。
「この程度の攻撃…どうという事ではないわ!」
だが、アンドレアスは…嘲笑する。
「随分と威勢が良い…」
彼の体を絞める。ムウは、女神の短剣を構える。
「神聖衣か…」
だが、童虎は気楽のままだ。
「早まるでない――ムウ」
「…っ!しかし…!」
「こやつの力…尋常ではない。それにムウ、サガ…お主らは既に限界が近い」
そうだ――ファフナーとシグムンドとの戦いで…!
「此処で我ら全員しくじれば――奴を倒す術は、この世から消える!」
「だから此処で退けと言うのか…!?如何に童虎の言葉とは言え、それは呑む事だけは出来ぬ!」
だが、彼は皮肉に笑う。勝利への逆転だと言うように。
「誰が退くと言った…?力には、使いどころがあると言うとるんじゃ!」
二人は――何かに気付いた。
「ふん、そろそろか…」

希望の星は――現れた。
「天舞宝輪――」

「何…?」
アンドレアスも、それに気づく。
「遅いぞ…馬鹿もんが!」
「急ぐな童虎よ…小宇宙を究極にまで高めねば、奴を葬る事は出来ぬ」
シャカだった――どうやら、彼は生きていたようだ。
「ならば任せて良いのじゃな…?」
「無論…今、アンドレアスの肉体をすべて喰らい尽し、完全復活を遂げようと言う貴様の目論見…このシャカが、阻止してくれる。アスガルド――いや、この地上を我が物にせんとする邪神――ロキよ!」
ロキ――トリックスターと言われる、悪夢と言える存在。
「邪神、ロキ――!?奴が、全ての黒幕…!」
アイオリアは、驚く。そしてシャカは――神聖衣へと覚醒した。
「ロキよ――その邪悪なる魂、我が最終奥義の前に…無に帰すが良い!」
「どんな小細工かと思えば…他愛も無いものを」

天舞宝輪――全五感、剥奪!

ロキは全てを闇にされた――が。
「一度に五感を全てを消しただと…?だが、これしき…!」
しかし――五感を、復活させた。シャカを一撃で倒し――生贄にせんとする。
「その程度の力で――この私を倒そうとするなど、浅はかと知れ!」
「浅はかなのは、お前の方だ――!」
シャカの言葉に、ロキは困惑をする。そう、シャカの目的は――五感剥奪ではない!三位一体――アテナエクスクラメーション!
「その構え…!」
「乙女座…まさか、貴様…!」
「そのとおり…わずかの時間を稼ぎ…それが…私の役目…」
言葉は、終わった。
「シャカよ――お主の開いた活路、無駄にはせぬぞ!」
「この一撃――放てば、我等の命も尽きよう!」
「後は、貴方に任せました…アイオリア!」
託すものと――託されし者。その宿命は、受け継がれゆく存在。

「今――女神なき、この地上を!」
「滅ぼさんとする邪悪なる者よ――!」
「神の力を借りて――我等がその鉄槌を下さん!」

神聖衣と化し――覚醒した彼等の力は、ユグドラシルを、塵へと変えた――。

目を覚ませば、ムウ達は倒れていた。
「…アイオリア…」
意識は、まだある!
「アンドレアスは…!?」
「大丈夫じゃ…ロキが完全復活する前に…」
「アンドレアスの肉体は、消滅した…!」
後は、あの実を破壊すれば――しかし、ユグドラシルの根が、突如として現れる。取り込まれたアイオリア達は――なすすべも無く、深い闇の底へ消える。
――実の成長が、止まっていない!?
その言葉の通り――実は止まらぬばかりか――成長を続けている!


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