錆び付いた鍵




まだだめよ、まだだめよ。
まだだめよ、まだだめよ。
まだだめよ、まだだめよ。
さあ…おはよう。悪いお夢は、これっきり。

それは――ヘレナ達の、弟と妹達でもあった。
「何…!?あいつらは…!」
ファフナーは、嘲笑を続ける。
「お前…あの女を随分と気にかけていたよな」
「っ…!てめぇ!ヘレナだけじゃなく…弟達まで…!」
「おおーっと…ガキ共はまだ死んじゃいない。あの女と同じ――貴重な適合者だ。そう簡単に死んでもらっちゃ困るからな――だが、この俺が死ねば、ガキ共も死ぬ!」
「…!てめえって奴は…何所まで…!」
これには、デスマスクも彼の非道に怒りを隠せない――だが、彼のやり方は、まるで昔の自分にそっくりでもあった。そう、相手を殺し…死面にする、悪逆非道でもあった、あの頃と…。
「さあ――どうした!この俺に、手を出してみろ!黄金聖闘士ぉ!」
ファフナーの鞭のように撓る刃に――デスマスクは、手も足も出なかった。

「信じぬ…!そんな事は、断じて!私はオーディーン様のご加護が無ければ、あの日に死んでいた!」
戦乙女を使い、シャカを一突きする――だが、彼は動じない。巨大な手で、彼を握り締める。
「あなたが何を言おうが…!この力は神オーディーンが与えてくれたもの!そしてっ!私はなったのだ――神に!」
シャカは――冷静に語る。

「哀れな神闘士よ――その呪縛が解かれぬ限り…お前の魂は救われぬのであろう。聞くが良い――このアスガルドに巣食う邪悪な者よ…直に我ら、黄金聖闘士が…必ずやお前に、鉄槌を下そう」

それは、この事件を操る――糸を引く者への宣戦布告。

ファフナーの攻撃を受け続けるデスマスクは、防戦一方だった。何も出来やしないとでも言うのだろうか。だが、絶対に諦めない。
「奴のこの力は一体…!?」
死者の生気が――オーディーンサファイアに吸い取られていく。生死を操る…魔の宝石と言えよう。
「オーディーンサファイアが亡者の力によって、さらに力を増しているのだ――此処に俺を落としたのは失敗だったな!」
もう、駄目か…!?そう思った、その瞬間でもあった。
「ドラゴニュート・バレット!」
蛇竜の一撃が彼に襲いかかる。けれども、彼は屈しない――!大切なものを、守るために!
「さっさと俺に地上を戻しやがれ!」
「…っ」
「あのちっぽけなガキ共の命が欲しけりゃなあああああああ!」
希望が、尽きた…その時!

『戦って…!』
『あいつを、やっつけて…!』

子供達の、声だった。
『お願い…!』
「…何を言ってんだ!それじゃあ、お前達は…!」

『私達は…平気だよ!だから…』
『お姉ちゃんの、仇を…とって!』

その思いは――確かに、受け継がれた。
「お前達の…お前達の姉ちゃんはなぁ…俺に、気づかせてくれたんだ!こんな俺にも――誰かを守ってやりたい気持ちが…あるんだってなぁ!だから俺は――」

「…な、何が起きている!?」
ファフナーも、奇跡を知らなかったのであろう。

「お前を絶対死なせたりはしねえ!――吼えろ!」
「――響け!」

「「俺の(我が)小宇宙よ!!」」

「神の力にひれ伏すが良い!乙女座のシャカよーーーーーーーーーーっ!」
彼は、理性を失った状態で…叫ぶ。だが、シャカは――彼の運命を受け止める為に、語る。

「邪悪なる影よ――!神の前に、消え去るが良い…!」
天舞宝輪――その、絶大なる神の力の前に、バルドルは敗れ去った――。

「どんなに小さくたってなあ…!死んでいい、命なんて…ありゃあしねえんだよ!」

「ば、馬鹿め…!俺を殺せば、あのガキ共は死ぬんだぞ!?」
ファフナーは、脅迫まがいの言葉を紡ぐが――デスマスクは、否定する。

「勘違いするな――殺しゃあ、しねえよ…積尸気命中波ーーーーーーー!」
これで――終わりだ!悲しい運命を、切り開け!

目を覚ませば――冥府の地に埋まっていた。デスマスクは、怒りを隠せない声で語る。
「お前には――生きる価値も、死ぬ価値もねえ!永遠に、生と死の境で苦しむんだな…!」
妹達も――消える。
「これで…あいつらは、大丈夫な筈だ…!」

「シャカ…私は、何を失ったのでしょう…?」
バルドルは、気づけなかった疑問を投げかける。

「それは…他者の痛みを思いやり、苦しみを憐れみ――慈悲の、心」

バルドルは、ずっと忘れていた――その心を、思い出す。
「私は…何と愚かな…!」
すると――ルーンが、消える。そして、失った筈の――痛みが、思い出される。
「バルドル…!?」
「…っ…!これは、今まで私が受けた――痛みの数々っ…!」
するとシャカは、掌で彼を――優しく、包む。
「第一感…触覚、剥奪…」
痛みが、再び忘れかける。それは――優しい、ぬくもり。
「シャカ…?」
「天舞宝輪は――相手の五感を、消し去る技…せめて楽になって――逝くが良い」

「シャカ――ありがとう」
しかし、彼も言葉を返す…。
「案ずるな――死は、終着ではない」
その運命を嘆くのも、善哉、善哉。

「悪ぃな、ムウ…すぐに、行くとか、言ったけどよ…ちいっと、疲れちまったよ…」
デスマスクも、倒れ――そして、静寂だけが、残った。

残る――霧の間・ニヴルヘイム。グラムを突き刺し、静かにシグムンドが見据えたのは――双子座の、サガ。
「俺の相手は――お前か。女神に仕えし――最強の、黄金聖闘士…双子座の、サガ!」
因縁の対決が――今。


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