空想白夜
「その私だからこそ…放てる答えもありましょう」
――先代水瓶座の聖闘士の言葉より。
虚ろな景色 崩れる砂上の幻想
一人描いた 真っ白な世界
スルトは笑う。全く、我が友であるカミュはこれだから――。
「山羊座よ――我等の裏をかいたつもりだろうが…それは浅はかと言うものだ」
「これは…!?」
カミュは気付かない。スルトの真意を。
「お前が知らぬのも無理もない…ユグドラシル七つの間の一つ氷の間は、その姿にもう一つの顔を持っている」
「炎の間――ムスペルヘイムだ!」
全てを失い 凍りついた瞬間に
終わりを告げよう 静かに空白の果てへ――。
「此処まで来て、犬死とはな…山羊座も…哀れな男よ」
スルトは、シュラを嘲笑する。
「犬死などではない――!シュラは…この俺に、友と拳を合わせる喜び…そして、友を失う悲しみを思い出させてくれた…!」
「下らぬ――」
「やめろ――!」
スルトは、シュラに刃を向ける。
「山羊座の事はもう忘れろ――カミュ!」
スルトは、カミュに炎の一撃を与える。カミュは、炎の一撃を喰らい――倒れた。スルトは、シュラに刃を向け――彼の体を貫いた。
「…シュラァァァァァァァァァァァァァ!」
慟哭が、響く。
いつか声を殺した 凍えるように眠れぬ夜
加速していく閃光 研ぎ澄まされ鋭く
最期彩りし色は 刹那に散る終の美学
鮮やかに『色褪せぬ華』を描いて……
届かぬ祈り――届かぬ叫び。
「炎の間は私が引き継ぐ――貴様は外で他の聖闘士を迎え討て…聞こえなかったのか?」
「かつてのお前は…曲がった事を好まぬ実直な男だった――」
枯れゆく刻に 飛び交う無数の幻影
虚実混じった 閉ざされた世界
「しかし――俺の犯した過ちが――お前と言う男を変えてしまった」
「それが何だと言うのか」
「貴様のせいで妹が死んだ――その償いをしなくてはならないのだ…違うか?」
「もうやめないか――スルト!」
「カミュ…裏切ると言うのか、この私を…そうか――やはりな、貴様は所詮、女神の手下。…いつか掌を返すだろうと思っていたわ!」
全てがこの手を 掠め過ぎてくように
願いは叶わず 消えゆく終焉の果てへ――
炎の剣を向けるスルト。だが、カミュも――後悔は無かった。
「新たに得た命――この命をお前の為に使うと誓った!それがお前の心を救うと信じて――!」
「しかし――間違いだった。戦いを繰り返すたび…お前の心は…さらに深い闇へと堕ちていく…!俺はもうこれ以上…!」
だが、スルトの二たびの一撃に倒れる。
「戯言は終わりだ――!神闘士――エイクシュニルのスルト!」
「スルト…!」
「構えろ、カミュ!」
いつか声を失くした 誇りだけを地に残して
それは気高い残光 輝きは ah...揺るがず
最期彩りし音は 臆さず散る優雅な風『Betep』
満たされた『色褪せぬ想い』を乗せて…
「――黄金聖闘士、水瓶座のカミュ!」
「行くぞ!」
スルトの炎の剣が、カミュを襲う。
「妹を失い――未来への希望をなくした私が、聖闘士となる道を捨てた…家族など必要ない…仲間など必要ない…全てを断ち切る…!そう心に誓った時――私は手に入れた」
朽ち果て滅びゆく儚い砂上の幻想
今償いの言葉を形為して刻め
枯れたこの場所に埋没を
抱かれるように眠ろう――
「蒼く――冷たい炎の力を!全てを断ち切る冷徹な炎の剣――!私はこの力で神闘士に上り詰めたのだ!」
「喰らうが良い――!ヘイトリッド・ブルーフレイム!」
炎の力が、カミュを襲う。
「我が蒼き炎の前に、貴様の氷の拳は役に立たぬ!終わりだ――カミュ!」
だが、断ち切られた。
「何!?この光は…!?」
「何故だ…もうそんな力は残っていない筈…?!」
「分かってくれスルトよ…!俺は…いや、私は…もう、これ以上…友を失いたくないのだ…!」
「私に友など――必要ない!」
カミュは、涙を拭う。
「煌け――我が小宇宙!」
途切れた呼吸は翳りさえも映して
終わりを奏でる 確かな生への干渉
「お前の凍てついた炎――私のこの熱い氷で溶かしてくれよう!」
オーロラ・エクスキューションが放たれる――そして、スルトは、やっと理解したのだ。
アルデバランは、倒れたヘラクルスに駆け寄る。が、彼はユグドラシルに取り込まれる。
「分かっていたのだ…俺に足りぬのは、力だけではない…俺は力のみを追い求め…そして、何時しか忘れてしまっていた…何かを守る優しさと言うものを…」
「闘技場での戦いに気づいていた…牡牛座…お前には、それがある」
だが、ヘラクルスを縛るユグドラシルを破壊し――彼を抱きかかえる。
「ヘラクルス…!」
「しかし――それは、時として弱さにもなる…」
触手が襲い掛かる。だが、彼は決心をした。
「最早巨人像は破壊出来ぬ…おれの勝ちだな…牡牛座…」
だが―ー彼は、最後まで、巨人の像を破壊した。
「その最後の力で脱出する事が出来た筈…見事だ…アルデバラン…!」
嘘は言わない、何故なら――その正義のヒーローになりかけた者であっても、誰かを助けたいと言う願いは…きっと、同じなのだから。
滅びの風が頬を仰いで――
倒れたスルトに、カミュは駆け寄る。
「カミュ――私は――私は――!」
「分かっている…もう、休むが良い…」
「カミュ…」
スルトは、静かに涙する。けれども、「黒き者」と呼ばれる宿命は、これで終わりにしよう。何度断ち切ったって、何度捨て去ったって――それでも、友の絆は――断ち切れないのだから。
いつか声を殺した 凍えるように眠れぬ夜
加速していく閃光 研ぎ澄まされ鋭く
最後に見渡す風景には 穢れ無い終の
Refulgence
鮮やかに『色褪せぬ華』を描いて…
*冒頭の台詞は聖闘士星矢冥王神話ロストキャンバス外伝3巻のデジェルの言葉より。
Refulgence/少女病
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