ここにいる




自分は、此処にいる。

「さあ、な――友、家族の別れは、私が一番よく知っている筈だ」
スルトは、話を続ける。
「エインヘリアル、ニーズヘッグ、フェンリル、シグムンド――北欧神話に限らず、神話はいつも、犠牲が付き物だ。それは、悲しい系譜と言えようが、言えまいが――友との別れは、決意したか、カミュ」
薄い氷の髪が舞う。けれども、後悔などしなかった。自分が、一番よく知っている筈だ。自分が――ミロや、シュラ――サガたちと決別を意味すると言えども、自分が決めた事なのだ。後悔などしていない。けれども、決して――犠牲が付き物だと言えるのは、何故だろうか。
「漸く長い長い夜明けが覚める。もしかしたら、私も――お前も、死んでいるかもしれない。だとしても、俺は…お前を信じる、カミュ」
「ああ、そうだな――スルト」

これが、グレートルート。
アイオリアから見れば、巨大な宝石と言えよう。確か、こんな話があった。呪われし宝石を巡り、多くの男女が犠牲になったと言ういわくつきの宝石の話が――だが、グレートルートから発せられる、小宇宙を吸い取るエネルギーは尋常では…無い!
「ムウ、神聖衣を!」
『無理です…!』
「何故だ!」
『条件があるんです…極限に高めた小宇宙と…アテナの体液が』

アテナに所縁のあるもの――彼女が、流した血と涙の結晶を。アイオロスのペンダント――黄金の短剣。

『ミロ…貴方はそれらを、持っていない』
「なら、どうしろと言うのだ!?」
『今、アテナの短剣を持った私が行きます』
「なら――テレポートで渡せ!」
『出来る訳が無いでしょう…!そんな体だと、死んでしまう可能性があるんですよ!?』

「ムウよ…一度は失ったこの命…今更どちらか先に行った処で変わりは無い」

「…っ…!分かりました」
だが、ムウは――ミロが死ぬ事を分かっていた。
(――貴方は、本当に馬鹿な人です。命知らずの、大馬鹿者です)

「礼を言うぞ、ムウ…」
ムウに礼を言ったミロは、死を覚悟した。

――カミュよ、もう一度――戦って――その意味を知りたかったぞ。
「行くぞ――アイオリア、アルデバラン!」

「――燃え上がれ!」獅子の咆哮が聞こえる。
「――滾れ!」黄金の牡牛の唸り声が響く。
「――轟け!」真紅の衝撃が光る。

「「「俺の小宇宙!!!」」」

「――体験させて、もらうよ」
傍観者は再び語る。その、決意ある勇気ある者達の姿を捉えて。

覚醒した者達の共鳴が聞こえる。そして、叫ぶ。
「打ち抜け――真紅の衝撃!スカーレットニードル!」
「如何なる障壁も我が猛進を止められん!グレートホーン!」
「闇を切り裂け!光の拳!ライトングプラズマ!」
光の一撃が、グレートルートを破壊した。

「これで、良かったのか――友が、散りゆく姿を見届けなくて、良いのか…カミュよ」
「わかっている、スルト――ミロの死を、決して無駄死にはさせない」

「後は頼んだぞ――」
ミロの意識が消滅する最中、最後に瞳に映ったのは――カミュの思い出だった。

「…ミロの小宇宙が消えた…」
アイオリアは、彼の死を決して無駄にはしない。と心に誓った。けれども、その決意は――多くの犠牲を乗り越えた先にあるのだから。
「ミロ…」
本当に、馬鹿な人です。ムウは、消えそうな声にそう呟いた。


「――アテナよ、この地上で…我らに託されし、本当の意味とは…?」
シャカは、暫く瞑想していると――何かを察した。けれども、それは残酷なまでに打ちのめされるほどの真実であった。シャカは、真実の欠片を手に――再び、聖衣を纏って立ち上がる。


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