茨冠の旋律




「美は表面上のみ現れるのではありません。己の信じるものに命を懸けるものは須らくみな輝く――懸命に生き、死ぬ者に美しくないものなどいない」

「…ついに現れたぞ、アンドレアス様もお喜びになるに違いない!」
彼女を包む球体から生み出された――禍々しい何か。ニーズヘッグのファフナーは、人々の生命を使い…何かを企んでいた。最も、これはアンドレアスの命によって作られた偽りの青水晶なのだが。其処に現れたるは、正義を翳して正義を騙る者に下す断罪の鉄槌を与える執行者。
「お、お前は!?」
ファフナーは黄金聖闘士が現れたのを予想だにしなかった。な、何故自分の野望が呆気無くばれてしまうのだ!?と驚いた。アフロディーテは、美貌でありながらも、正義の聖闘士であった。相手に断罪の赤き華を与える。魚座の黄金聖闘士でありながらも、デスマスク、シュラと共に偽りの聖域――否、サガを守っていたのだから。
「天と地の挟間に輝きを誇る美の戦士…魚座のアフロディーテ」
彼は美しくそう囁きながら、狡猾たるファフナーに殺意を向ける。
――この男は、デスマスクとは違う。愛と誇りと正義を知らぬ、悪だ。
――サガは人々の生命を利用したりなどしない。アンドレアスと言う男は、どれ程までに悪なのか…。
「なっ…何故分かったのだ!?」
「ユグドラシルの地脈と愛しき花達が…私に、この場所を教えてくれた」
花は遅く咲くほど美しい。けれども、散る時は――また、儚いのだ。儚さと、切なさは紙一重なのだから。舞い散る薔薇、純白(イノセンス)を知らぬ花…。
「無駄だ――君の五感は既に失われつつある」
「貴様っ…!」
人々の命を利用した罪を――その場で購うが良い、ファフナーよ!
「ロイヤルデモンローズ!」
薔薇に磔にされたファフナーを背に、彼は語る。
「このアスガルドでは、我々から吸収されている小宇宙は全て、ユグドラシルへと向かっている――そして、その周囲の結界を全て、破壊すれば…小宇宙の吸収を止める事が出来る」
「ど、どうしてそれを!?」
それは、植物の脈動を自分が感じ取れるからだ。お前など、狡猾な蛇に過ぎない。
「私は――植物の脈動を、感じ取る事が出来る…さあ、教えて貰おうか…結界を破壊する方法を」
「っ…馬鹿め!そんな事をこの俺が教えるとでも!?」
だが、ファフナーは哀れな悲鳴を上げる。アフロディーテは、「君の口から聞く必要などないさ」と微笑む。何故なら、薔薇が全て教えてくれるのだから。この毒薔薇は、自分とは長い付き合いであり――人生の一部だから。
「まさかっ…!?おれの中枢神経にっ…!?」
アフロディーテはファフナーに近づき、ファフナーは呆気無く、また倒れる。
「君には礼を言いたい所だが…今まで苦しんだ人々を思うと、見逃すわけにはいかぬ」
そうだ。サガなら、きっと――人々を利用しない。増してや、デスマスクの想い人であるヘレナを利用した罪は――最も、重いのだから。
「これ以上貴様の好きにさせるとでも――!」
「報いを受けるが良い…」
止めの一撃だ。あの世へ行くが良い。そう思った矢先だった。

「黄金聖闘士の中に、植物に通じている者が居たとは――驚いた」

背後から現れた、ローブを纏った男。ガーネットの髪をし、ガーネットの瞳をした美しき男。アフロディーテは恐ろしいほどに凶悪で…禍々しい小宇宙を感じ取った。いや――自分がジョーカーを引いてしまったと過言ではないだろう。
「お前は…?」
「あっ…アンドレアス様!」
ファフナーは情けない悲鳴を上げ…彼の名を呼ぶ。こいつがオーディーンの地上代行者なのだろう。
「例の物が待ちきれなくてね」
ヘレナが口にしたこの男は、嫌な空気を纏っていた。純潔と言っても過言ではないだろう。いいや――違う。こいつは…かつて、シオンの名を騙って君臨していたサガとは違う!
「お前が…アンドレアス」
ファフナーは「この内に退散させて頂く」とそう言い、病院から出て行った。アンドレアスの空気は、嫌と言うほどに冷たく…戦慄を感じてしまうのは何故だろう。
「私の部下や街を荒しているのは…お前か?」
「っ…生憎、私は正義を信じて戦っている。貴様こそ――人々を騙し、神を騙る行為は――背信行為に等しい。だが、アンドレアスよ――ひとつだけ、言っておこう」

「――お前は、サガとは違う。人々の生命を利用した罪を――その場で購うが良い!」

*冒頭のシーンは聖闘士星矢エピソードG11巻よりアフロディーテの台詞から拝借。


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