Disce Libense
七人の騎士たちと一人の教祖様のお話。
ユグドラシルを見ると、何かが呼んでいる気がする。運命か、それとも――必然か。リフィアは、呼び寄せられたような気がした。目は虚ろになり――スカーフは、風に飛ばされた。そのスカーフを掴んだのは、アイオリアだった。アイオリアは、リフィアの様子が変だと気付いた。
「――リフィア?」
「…っ!?アイオリア、貴方も、眠れないの?」
「ああ…昼間に感じた、あの小宇宙のせいだ…」
「…本当に、黄金聖闘士が戦い合ったの?」
「…」
それは、13年前に遡った。まだ、幼い黄金聖闘士は、教皇の座を得るのは難しかった。そこで、選ばれたのは…アイオリアの兄、アイオロス。双子座の聖闘士であり――後に反逆をしたサガ。だが、教皇であるシオンは、サガではなく…アイオロスを選んだ。サガは、悪と善の性格に苦悩し、悪の性格に身体を乗っ取られ――教皇であるシオンを殺害し、自らが教皇となり…アテナを殺害しようとした。だが…アイオロスに阻まれ、アイオロスはアテナを殺害しようとした逆賊の汚名を着せられた。そこから、聖闘士同士の戦いが始まったのだ…。多くの命が失われ、失った生命もまた、冥界の王であるハーデスに利用され…また、聖闘士同士の戦いが始まった。
「…リフィア、アンドレアス達の事を詳しく、教えてくれ」
「わかったわ、アイオリア…アンドレアスの配下である神闘士の事を、話しておくわ」
本来神闘士は、オーディーンに選ばれた戦士達の事である。神闘衣(ゴッドローブ)を身に纏い、地上代行者である者の意に従う。だが、今回は違う。アンドレアスが直々に選んだ者達であった。
グリンブルスティのフロディ――代々神闘士を生み出してきた家系に生まれ、優れた身体能力で敵を圧倒する男。アイオリアが一度対峙した男でもあったが…リフィアは、言葉を少し濁らせたような気がした。リフィアは、フロディと何か…あったのだろうか。
タングリスニルのヘラクルス――強大なパワーで敵を叩きのめす、戦闘に盛んな神闘士。闘技場で、ある男と対戦し返り討ちにあったと言う情報を得た限り…恐らく、黄金聖闘士にでも敗れたのだろうか。
エイクシュニルのスルト――冷酷な性格で、狡猾な性格をしている。炎の力を纏った剣で戦い、敵を焼き尽くす。
グラニルのシグムンド――武骨な闘士であり、ある事情で聖闘士を毛嫌いしている。その毛嫌いしている事情は、後ほど明かされることになるのだが…。
フレースヴェルグのバルドル――不死身の男と言われている美貌の神闘士であり、何故不死身と言われているのかは不明であるが…とんでもない事実が明かされるのは、まだ、誰も知らない。
ニーズヘッグのファフナー――手段を選ばない卑怯な性格であり、ムウと対峙した…マッドサイエンティストと言うべきであろう、卑劣な男だった。これからも彼の陰謀が進む限り、誰かが犠牲になっていく。
ガルムのウートガルザ――リフィアでさえ、事情が分らない男だった。化け物染みた仮面を被っている辺り、よからぬ敵であるのは間違いない。
「流石双子座のサガ――恐るべき威力を持った、男だ」
アンドレアスはそう言い、不敵な笑みをしながらも――余裕の表情を浮かべていた。
「アンドレアス様…このフロディに、再びの出撃命令を!」
「ハッ…黄金聖闘士から逃げて来た連中がよく言う…」
スルトの嫌味ったらしの発言に、ヘラクルスは「何だと…!?」と怒りを隠せなかった。フロディが宥めるものの、スルトは全く反省する素振りを見せやしなかった。
だが、フロディはある事実を伝えた。
「言い訳をするつもりはありませんが…あの時、獅子座の聖衣に、別の何かになりました。あれは、一体…」
「別の、何か…?」
フロディの説明に、アンドレアスは少し興味が湧いて来た。
「興味深い…バルドルは、どう思う?」
銀髪を垂れ下げ、美しい赤い瞳をした美貌の男バルドルは、アンドレアスの発言に少し頷いた。
「そうですね――やはり、黄金聖闘士は我々の知らない力があるようですね」
だが、シグムンドとスルトは、再び彼に問い質せた。
「アンドレアス様…蠍座に、トドメを刺しに行かせて下さい」
「出撃命令を」
「ああ…その一件は、後回しだ。それよりもファフナー…例の物はどうだ?」
「はい…順調に出来ています」
陰謀が渦巻く中、ウートガルザだけは問う事も、答える事もしなかった。彼の金色の瞳は、何を映しているのか…まだ、分かりはしなかった。けれども、真実を映しているのは――確かであり、神闘士でさえも予想すら出来やしなかった、ある『事実』を…。
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