あなたの選んだこの時を | ナノ

Innocent sin

結局、翔悟の記憶を持っている者はグレゴリーとヴィクトール、ベントーザ、グラディスに留まった。彼等に関する共通点は分からないが、何故記憶を持っているのか。謎が多すぎて分からない…とルークが考えていると、フレイドは暗い顔をしていた。
「…どうしたんだ、フレイド?」
「ああ、いや。何でも無い」
そうか。とルークは納得出来なさそうな表情をした。フレイドは「ねえ…」と何か口を開きそうな表情をしている。ルークは「如何したんだ?」と尋ねる。
「私は…前線に出る事は最も少ない」
「…最も?」
「ダークバットに適合してから、私は他のエクェスを転送する為に前線に出る事は無い。最も、私は…使い捨てかもしれない。だけど、ペルブランド様とバーリッシュ様が居るから私は此処に居る。けれど、彼等の足を引っ張る事になるなんて思ってもいなかったし、取り返したフェニックスボーンも、レボルトに奪われてしまったから、全て、空回りに――」
「――君は、そうだと言い切れるのか?」
「そうだと―――?」
するとルークは、涼しい表情をして別荘から夕日を見上げる。
「ホワイトボーンのリーベルトは頑張って、君や君の上司を助けたそうだ。其れでも貴方はクルードの――いや、愛する者の為に為に頑張っている。空回りも何も、そんな事は無いだろう」
「――やっぱり、貴方は優しいのだな」
「優しい?そうかな。私は貴方が羨ましいとは言い切れ――」

プツリ。

「―――――――!!」
この音は知っている。使いである私にとって馴染み深い音である。
「―――そろそろ、」
「―――そろそろ、表舞台から登場してもらおうか!レボルト、ソキウス―――!!」

「やっぱり、お前なのか」
現れたのは、銀髪の男――ダークウロボロスのソキウスだった。懐かしき黄金の瞳はやっぱり自分たちを如何映しているのかは分からない。だが、これだけは言える。あの時みたいに自分達を甚振る気であろう、その狡猾で残虐なその瞳は何時になっても変わる事は無い。
「フレイドは傍観者である事を放棄し、シャークボーンの適合者であるお前が此処に居るなんて、素晴らしい風景だな」
「黙れ、ネポス・アンゲリスを裏切った裏切り者が…!」
ルークは警戒を強めているが、彼は何も動じない。ソキウスは相も変わらず紫紺のローブを着ている。が、肝心のレボルトが此処に居ない。やはり、翔悟について何か知っているのだろうか。とルークは考えた。
「此処に居るさ」
黄金の獣と言うべきであろう、アメジストの瞳に金色の髪をした男――レボルトは、ソキウスの隣に現れた。
「久しぶりだな――ドラゴンボーンの仲間と――フレイド」
レボルトはそう言い、アメジストの瞳でルークを見据える。
「今日はお前達に戦いに挑む訳ではない」
「訳では、ない――?」

「――ルークを、殺しに来た」

「………!それだけはさせない!」
「だが、其れだけはさせないとは言えども、フレイドと俺の実力差は圧倒的だ」
「ぐっ…」とフレイドは何も言う事が出来ない。するとレボルトは語る。

真実を話そう。この物語は、外典でも儀典でもない。嘘偽り無き物語だ。
最初は一人の少年と竜が契約を行った事による波紋。始まりの魔神の理による天使の末裔が地球への侵攻は――次々と契約者が生き残りをかけた戦いに挑んだ。友の為に命を懸けた鰐、信仰の誇りの為に命を散らした鷲、憧れへの葛藤の鷹、主の誇りの為の剣魚、狡猾で残忍な蛇、獰猛な暴れん坊の烏賊、狂気に至らせる梟――解放を望んだ番犬、悪夢への忠義の蛇。全てを巻き込む古の戦いである。だが、彼は始まりの魔神と対話を果たし、自分が理となってみせると言い出した。だが、一人の少年はそんな事を望んではいない。と叫んだ。しかし、少年は言った。

「きっと、すぐに戻って来るさ。何時かは、ただいま。と言おう――」


「―――!!」
ルークは体を震わせる。言うな、レボルト――その事実は、言っては――。

「――単純明白に言おう。イドの正体は――ルークが翔悟に抱く、『未練』だ。そしてルークも――イドと化している」


嘘だ。
信じていたのに。
何時か戻って来ると、信じていたのに。

「―――ルーク!!」
フレイドの叫びが、意識が黒く染まる前に――大きく木霊した。