あなたの選んだこの時を | ナノ

One

「んだよ、テメェらかよ」
エメラルド色の髪をした男――ダーククラーケンのベントーザだった。ルークは「イドではなくて安心した」と言い、フレイドもレイピアを消した。ベントーザはエクェスのフレイドが部外者であるルークを連れて来た事に腹を立てているのか、少々不機嫌な様子である。
「フレイドの野郎…」
野蛮人な地球人のルークを見て、少々イラついている言動であるがフレイドを見て直ぐに落ち着いた。
『何の用件だ』
フレイドがそう言い、ベントーザを睨む。ベントーザは「てめえに用件などねえ」と言い、ルークを見た。
「おい、そこの水属性」
「水属性ではない、ルークだ」
するとベントーザは耳打ちに語る。

(ドラゴンボーンの野郎は如何した)

「………!!」
ルークは驚いた表情をし、ベントーザは「今日は暇つぶしに来ただけだ。じゃあな」と言い、別荘の窓から飛び降りた。

「如何言う事だフレイド、説明をしてもらおうか」
『説明…?』
「ベントーザが、翔悟の事を知っていたようだが」
『まさか…レボルトの部下である彼がドラゴンボーンを知っているなんて有り得ない。レボルトの存在すら消去されたのに…』
フレイドがおどおどしていると、ルークは「なら、そうか…」と言い、静かにフレイドを見た。
『貴方は…仲間思いなのだな』
「仲間思い?私は唯、ドラゴンボーンを守る為に…ああ、父にも言われたな」
『私も、変われた。ペルブランド様とバーリッシュ様が居るから、私は此処に居る。傍観者である立場ではなく、唯、大切な人を守る為に。クルード様とシュトルツ様を守る為に、必死でウロボロスに立ち向かった――でも、翔悟達が居たから、幽閉された私を助けてくれた』
フレイドは滅多に見ない笑顔をした。
「変われる存在なのだな、地球人も、ネポス人も、神である立場である貴方でさえも――」
ルークとフレイドが苦笑をしていると、ルークの耳に懐かしく響く聞き覚えのある声がした。

『ルーク!』

「翔悟…?」
別荘から出たルークは、フレイドの制止も聞かずに唯翔悟の声が聞こえる方面へと向かう。其処に居たのは、紛れもなく竜神翔悟の姿であった。
「翔悟!無事だったか!一体今まで何を――!?」
フレイドはレイピアを具現化させて翔悟を踏み込み突きで腹を一突きする。ルークは我を忘れて「貴様!一体何を!」と叫んだが、様子が激変したのはその後であった。
「翔悟…!?」
翔悟の姿は見当たらなくなり、其処にあったのは漆黒の黒い繭――であった筈の存在だった。
『危なかった』
「危なかった?これは一体如何言う…」
『イドにも、思い人や大切な存在に化ける者も居る。前に私が悲鳴を聞いて駆けつけた時は民が繭に取り込まれて――『イド』になってしまった』
「同じイドに…なる…!?」
『イドを生み出す方法は、人間や星の民を食い、イドを生み出すか――或いは、強大な理を食い潰して、大量のイドを生み出すか』
ルークは真っ青になった。もし理――翔悟の身に何かあったら、宇宙はイドによって食い潰されてしまう。そんな事は絶対にあってはならない。ルークは直ぐに立ち上がり、黒い繭に向かって――剣を振るった。
『貴方、エゴに……!?』
「……!?」
剣が具現化された。と言う事は、ルークはエゴに覚醒したのか。とフレイドは納得をした。だが、フレイドの頭に浮かぶのは、翔悟の存在を知っているベントーザ…ふと、ある事に気付く。
『ルーク……』
「何だ?」
『タイガーボーンとウルフボーンの適合者の元に行く』
「!?」
タイガーボーンの適合者――ヴィクトール、ウルフボーンの適合者――グレゴリーの事か!?とルークは驚く。フレイドが何を考えているのかは分からないが、恐らく――翔悟に関する記憶を何か知っているのかもしれない。だが、危険だ。彼等はネポスにも地球にも牙を向く相手であり、傭兵同然でもある。フレイドは危険を承知に分かってやっているのか。とルークは思った。だが、フレイドにも時間がないらしい。傍観者の立場であったが、何時の間にか世界を救う存在にもなってしまった。フレイドは、恐らく兄弟に何かを確かめる為に…。ルークは「分かった、私も行こう」と言った。
「力を間違えた因縁の相手だ。私にも腐れ縁と言う仲だから、きっと恐らく――いいや、なんでもない」
ルークはそう言い、フレイドに転送先を頼むと言った。フレイドが恐らく兄弟の居る場所は――メルボルン研究所跡地だ。と分かった瞬間に、フレイドは空間の力を使い、姿を消していた。



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