螺旋淵
幻獣種のダークウロボロスの力は、空間属性最強のボーンと言われる。無限を生み出す輪廻の大蛇を模したそのボーンは、一度暴れれば戦場を阿鼻叫喚にさせるほどの力を持つ。
対するレボルトのダークケルベロスは、雷属性最強のボーンであり、亡者を喰らう冥府の地獄の番犬を模したボーンは、適合者に虐殺の力を授けた。
どちらも凶悪なボーンであり、評議会に若くして入った二人は――危険人物だと噂された。彼等が暴れれば、悲劇しか訪れない――最古評議会メンバーのクルードとシュトルツは、彼等を警戒していた。若造と称するクルードは、特にレボルトに警戒を怠っていなかった。だが、レボルトはクルードに抗議する。老害め、大人しくしていれば良いものを。と語る彼は――まるで悲劇を紡ぐように言葉を紡ぐ。地球での失敗をネタにして彼を幽閉まで追い込むのだから。きっと彼は冥府の裁判官の如く、彼を追い込んだに違いない。罪を生み出した彼を、殺すように、裁く様に。
「本当に行うのだな、シュトルツを消し、お前が評議会に君臨する――失敗すれば、お前も俺も唯では済まない」
「大丈夫さ。ソキウス、お前が居れば、上手くやれるとも」
レボルトはそう言い、ソキウスは彼に付いていく。ケルベロスとウロボロスに着装した二人は、忍び笑いをしたが――何故か、忍び笑いが止まらなかった。
シュトルツを始末した後、彼を異空間に幽閉させる。評議会臨時議長に就任したレボルトは、実質的に評議会を支配したのだった。
「英雄とは、一体なんだろうな」
ソキウスはそう言い、古びた書物を出す。レボルトはソキウスがそんな趣味を持ち合わせていた事に気付き、彼の前に立ち尽くす。
「英雄とは、名誉の為に戦い――誰かを助け、平和の為に尽くす。だが、そんなのはまやかしに過ぎない」
クルードが英雄と言われているが、始まりの魔神のご意志と称して他の星の民を殺さず、核だけを取り出して始まりの魔神に尽くす。赤き英雄と称される程に、彼はネポスに永劫の平和を齎している。だが、他の民の死を思うのなら、何故お前は裁かれぬ?罪とは一体何処に存在しているのだろうか。だが、ソキウスは彼を咎めなかった――が、目障りだと称した。
「ああ、お年寄りの説教は御免だったな。英雄と称されても、彼とは一番戦いたくないとも」
ソキウスはそう言って、書物のページをパラパラ開く。
「一体何が彼を動かしているのが分からないが、これだけは確かに言える――英雄、死すべし」
フフッとソキウスは笑い、レボルトもつられて笑う。二人の悪党――いいや、ネポスの民を下す審判者であり――断罪者でもある。
レボルトがクルードの所に行っている最中、ソキウスはレボルトがダーククラーケンのベントーザを外の監視に行かせたのだと悟る。リーベルトを捕獲しに行ったのだろうか。と思っているが、ソキウスはある物語が書かれている古びた書物を見つめる。
『赤の英雄は――蒼の英雄と対峙する。偽りの平和を統治する蒼の英雄。真の平和の為に戦い続ける赤の英雄。だが、彼らの交わらぬ思いは、ぶつかり合い、やがては消え去る蒼の英雄。だが、案ずる事はない。例え彼を倒しても、永劫の平和など訪れる事は無いのだから。人の憎しみが、ある限り、運命は交差する』
ソキウスはハァと溜息をつき、書物を閉じた。一体、英雄とはなんだろうか。真の永劫をもたらす者?平和をもたらす者?いいや、決定的に確信しているのは――。