漆黒の世界

時折、騎士団本部の休憩室で本を読んでいるフレイドを何度か見た事がある。その顔は少し嬉しそうな顔で、心が落ち着けるのかと思っていた。その時に読んでいた本が小さな勇者様と言う本で、勇者が悪い悪いドラゴンを退治すると言う有触れた内容だったが――彼の顔は今でも忘れられない。クルードが拾った子供であるのに、少し変わった子供だと思っていた。だが、彼の心に黒い染みが生じている事が分かった。あれは、憎悪なんかじゃない――孤独に心が押し潰されたような黒く黒く、けれど悲しみに染まっており――。

「…ペルブランド様?」

目を開ければ、同じ『8代勇士』であるソキウスがこちらを見ていた。少し表情が良い――ソキウスも契約を果たして、弱い体の身でありながら大変であろう。しかし、あの痛々しい光景を思い浮かべる。

『来るな』 
同じ8代勇士のバーリッシュと共にクルードの元に来ると、彼がハッキリとそう言った。奴隷市場に来てみると奴隷や商人、奴隷の主が全て皆殺しにされた。ぐちゃぐちゃに臓器が食み出しているかのように飛び出ていたり、体が真っ二つになっていたりと惨劇に変わりは無かった。何なんだ、何なんだこれは。とバーリッシュは叫ぶも、クルードは目を逸らさずに現実を見つめていた――ガーゴイルに抱かれて眠る緑がかかった青い髪の子供の姿が。彼は表向きは奴隷市場からこっそり脱出したと言っているが違う――このように奴隷市場の者全てを皆殺しにしたのだ。まだ使いこなせていない魔法と――契約したモンスターを使って。クルードが騒ぎを聞いて駆けつけたものの、時は既に遅し。彼以外全て殺されたのだ。ガーゴイルは擦り切れた服を着て――体中が傷付いている子供を抱き上げて叫ぶ。
『クルナ、ニンゲンドモ。イッタイナンノヨウダ。アルジハ――ココロガコワレテイル。テヲダスナ、ミルナ、クルナ』

心が壊れている――あの時、ガーゴイルは確かに言った。だが、8代勇士は子供を助けなければいけないと言う使命も持っている。今更何を…あの時、殺しておけばいいとレボルトは言っていたが、そうはいかない。子供にも生きていなければいけない義務がある。そんな死に晒す行為は不公平だ。

「…バーリッシュ」
「何だ?」
同じ仲間であり、クルードの教え子でもあるバーリッシュに問う。

「…死ぬ事って、一体何かしら。生きている事が辛いのなら、死んで楽になれるというのかしら。でも、死を恐れている人間は、生きている事に絶望している。其れなら、生きる事も死ぬ事も出来ないと言うのかしら」

「―――そうだな、時々お前の言う事も正しいといえる。死ぬ事すら出来ない人間は――何を望む?」

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