人形は夢を見ない

肉が裂ける音がした。ナイフで肉をくぱぁと切り裂く生々しい音ではない。グシャッ!と血飛沫と共に音が鳴り、その非現実的な光景は滑稽にも起きているのだと知る。始末をした眼帯の男――ヴィクトールは、血塗れた短剣を捨て、兄のグレゴリーと共に森の奥深くまで消えた。
「アイツにトドメを刺さなくて良いのか」
「いや、そんな余興はしない。トドメを刺すのは飽きた」
「よく言うな。お前がこの森に来た来訪者を襲撃して、お前がトドメを刺して俺が死体を処理するって言ういつものパターンなのに?」
「そうじゃない」と虎の眼帯をした男が言う。

「―――あの魔術師は俺達と同じ、『人形』の匂いがしたからだ」

ナイフで喉を掻っ切られ、意識が朦朧としている。血が段々と泉の様に溢れ出ている。嫌だ、死にたくない。と言う思いが何故か、滑稽で浅ましい。死んだら、神様の下へ行ける。と感じた。

幼い頃から母親から虐待を受け、少年期は奴隷のように扱われた。こんな人生で死ぬのも悪くは無い。でも、死ねる理由が見つからないのだ。何故、自分は母親から逃げ出さなかったのか?何故、奴隷を受け入れたのか?自分でさえ分からないこの状況でさえ、理由は見つからない。
魔術師である自分が、生きる理由を問いただす事さえ出来なかった。これが、自分への罰だ。
静かに目を閉じ、やっと死ねる事が出来る――そう願い、深い眠りへとついた。




金色で美しい髪をした男が、死に掛けた魔術師を見て嘲笑うかのようにこちらを見下ろしている。まず、痛々しい首の傷跡から手をかける――。

夢を見たのだ。赤ん坊だった自分を、母親が子守唄で寝かしつけている。ああ、走馬灯か。と思うも、自分は何時も、生きる事から逃げ出して死に執着していた。何故か、其れが気に入らないのだ。遠い記憶の中、母親にお父さんの事を問うと、「お父さんはね、貴方が生まれる前に流行り病で死んじゃったの」と言っていた。見た事が無い父親の姿。だから、お父さんに会える気がする。会えるのなら、いっそ死んでも良い――。悪夢が覚めるのなら、この夢の中で永遠と夢を見たい。

「―――――Il t'aimait aussi. Il croyait.(其れでも貴方を愛していました。信じていました)」

死ぬ時まで、死はいつも隣に居るから。

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