契約と契り

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」
母親からの虐待を受け、幼い自分は泣いている。絶大なる魔力を、母親は恐れたのだ。幼くして奴隷市場に売り飛ばされ、抱かれ、虐げられ、壊れるまで扱われた。死に掛けた最中に出会ったのが――ガーゴイルと言われる化け物だった。契約するか、死ぬか。何故あの時、死ぬ事よりも生きる事を選んだのだろう。彼は結局契約をして声を失った。その代わり、得たのは空間を転移する力。魔術師には無い力を持ち合わせ、彼は騎士団に入った。

「お主の名は?」

暗いアメジストの瞳が捉えたのは、奇妙な男だった。彼は剣術がモットーである聖騎士とは違い、刀を持って戦っている男。黒いオールバックの垂れ眼の男は、刀を持っている。ローブを着た自分は、少し変わった奴だと騎士団の仲間から言われているが、この男も変わっている人だろうか。と思うも、口を開く事は出来なかった。
「何、お主が名の知れた魔術師だと聞いている。拙者はグラディス、第7騎士団の隊長だ」
彼が隊長であるのならば、自分は後輩なのだろうか。

「フレイド殿は、何故騎士団に入ったので御座るか?」
髪を結んでいる最中、グラディスはそう言った。自分は唯、流されるがままに入って来たとしか言えない。と思っても、過去の記憶が断片的に蘇る。
奴隷の雇い主に殴る、蹴られる等の暴行を受けた自分は唯冷たい部屋で布団も無く、自分の体温で凌いでいた。いつかは凍え死ぬか、餓死するかの二択。そんな時に自分に布切れを被せたのはまだ幼い、同じ奴隷の少女だった。彼女は何か言いたげな声を出していたが、自分はあの時意識が朦朧としていたので聞き取れなかった。その翌日、彼女は物言わぬ体になっていた。餓死したか、暴力で衰弱死したか。
その後、『契約』した後にひっそりと奴隷市場から脱出し…『あの人』に拾われた。魔術を習い、覚え書きをして、最若年層で魔術師になったのは覚えている。
あの時、何故自分は死ぬ事を望まなかったのだろう。あの時、幼い少女と同じように死んでいれば。
「……………」
グラディスは彼の気持ちに静かに察し、静かに「そうか」と言った。
「良くない過去を思い出させてしまったな」
彼はそう言い、何かの木の実で作った髪飾りで留めた。彼は優しいのだな。と言いたいのに、言えない。

―――少し、契約をした代償が不便だと感じた。

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