声無き魔術師

その魔術師は、アメジストの瞳と緑が掛かった青い髪をしていた。彼は幼い頃に奴隷に投げ飛ばされ、酷い扱いをされた。との事らしい。しかし、真実は彼しか分からない。
何せ彼は一切喋らないからだ。死に掛けた際に蝙蝠の化け物に自らの大切なものと引き換えに、強大な力を得る『契約』を迫られ、声を失ってしまったからだ。
彼は騎士団の中で唯一、魔術師であり――化け物であるから。

漆黒のローブを身に纏い、腰に短剣を携わっている彼は、とある教会の入り口付近の階段に座っていた。何も言う事が出来ない彼は、近くの店から貰った林檎を齧って食べている。人々から奇妙な噂を聞いた。
「聞いたか?第一騎士団が壊滅したらしい…」
「何せ、相手はたった一人で騎士団を潰したらしい」
「金髪の若い青年だったらしいわ。其れもケルベロスと契約を果たし、人間の力を超越しているとか」
「ひえー、怖い話だ。騎士団長が聞いたら怯える話だよ」
…騎士団がたった一人の男に壊滅された?そんな事が無い。と彼は思ったが、噂によると何せ相手が化け物だからと対応出来なかったらしいと言わんばかりに砦が完膚なきまで叩き潰されたらしい。其れなら、何故彼はこんな事を。と青年は思うが、噂は人々のざわめき声と共に消えた。
青年は、教会の古いドアを開ける。

―――この世界に神が居るのなら、何故神は世界を御創りになられたのだろうか。

その昔、助けられた自分にそう言った『彼』は、紙について疑問を生じていた。

心優しき女性が天使達と笑っているステンドグラスがキラキラと輝いている教会内は、唯一国の戦火を免れたので美しいと評判である。だが、其処には祈る人々も居ない無人の教会内。其処に佇んでいるのは、銀髪の青年だった。
「――おや、フレイドか」
メドゥーサの瞳の如く、金色の瞳をした美青年――その昔、8人で戦争を終結させた英雄と言われている『8代勇士』の一人ソキウスだった。
「お前が此処に来るのは分かっている。気配で察したのだから」
ソキウスはそう言い、咳をして口を手で覆う。彼が契約したのは『ウロボロス』であり、失われたのは『体力』…強大な魔力と引き換えに、健康的な体力が失われた。しかし彼は、強大な知識と魔術を得て――若くして騎士団の大魔術師に就任したのだ。
「…相変わらずこの契約は不便だ。だが、其れに見合った魔力はある」
ソキウスはそう言い、ペラペラと魔術に関する書物を読む。何故彼はフレイドを呼び出したのか、何故フレイドは此処に来たのか、其れはソキウスの口から開かれた。
「―――先日、第一騎士団が壊滅した事は覚えているか」
彼はそっと頷き、ソキウスは「そうか」と言った。ソキウスは話を続ける。
「第一騎士団を壊滅したのは、金髪の男だと聞いた。俺はその男を知っている」
その男を知っている?とフレイドは疑問に生じる。するとソキウスは、唯転々と話す。
「お前に任務を与える。辛い任務であるが、心して聞け――――その男を保護してくれないか」
その男を保護…かなりリスクは高い。だが、ソキウスの命令であるのならば。フレイドはそう思い、深く頷いた。ソキウスは彼が任務を請け負ってくれると見て、「なら良かった」と安心したような顔をした。
「その男は『聖域の森』に居ると情報を得た。快くして任務へ行ってくれ」

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