十代が目を覚ますと、木の棒を持っていた。しかし――木の棒が真っ赤になっていた。目の前に映ったのは、撲殺された犬の死骸。犬の口から泡が吹き出ている。血塗れた悪意、其れでも、十代の身体は真っ赤に染まっていた。
「ああ…」
後ろに居たのは怯えたヨハン。違う、違うんだ。俺は、俺は…。
「う、うわああああああああああああああああ!!!!」
十代は、真っ先に逃げ出した――帰り道とは違う、奥深くのウルズエリアへと。

「違うんだ、違うんだ…!」
十代は後悔していた。明日香を守れなかったのは、自分のせいだ。其れでも、自分が何をしたって言うんだ…!怖いんだ、怖くて怖くて!
十代が泣き出すと、目の前に綻びたのは氷の棺。氷の棺の中に囚われているのは、もう一人の自分だった。
「あ、え…?」
現実なのか、夢か幻か。それとも――これは悪夢なのか。すると頭の中に、声が響いてきた。
「誰?」
『我が名は覇王』
「は、おう?」
『そう、かつて電脳世界で悪しき魂を封じ込めた『魂』』
「魂?」
魂。其れは人間の心そのものである。魂は、人々の希望そのもの。絶望そのものであった。だが、人に二つの魂はあるのだろうか?答えは否である。

『貴様の危機に、俺の心が共鳴した。だから俺は一時的であるが、棺の中から出る事が許された』

つまり…電脳精霊?それと、悪しき魂?
『悪しき魂…ダークネスの事であり、全てを葬り去る存在。俺はダークネスを封じ込める為にこの世界に光臨した』
「…分からないんだ、この世界の事が。電脳世界は、そもそも何故生まれたの?」
すると覇王は「分からないのか」と言った。

『いいだろう、俺が話してやろう。この世界の誕生について』

電脳世界が生まれたのは、覇王がまだ――ダークネスと戦っている最中の事であった。
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