トランクケースを置いて学生寮――遊城十代の部屋に居る。
此処で暫く生活するつもりだ。勿論学生としてではなく、『居候』としての話であるが。バスルームまで付いているなんて驚いた事だとジムは苦笑する。
鏡の前に立ち、包帯を外す。
「…やっぱり、これを人前で見せるには嫌なんだ」
其れは、義眼ではない。義眼ではなく、生命を模した『何か』だった。
クラスメイトから気味悪がられ、包帯を巻いて登校していた。

「ジム、貴方の目はどうなっているのですか?」
学校の帰りの中、アモンは疑問に思っていた事を口にする。ジムはバッグを持って帰ろうとした瞬間にアモンに話しかけられた。
「オブライエンも気にしていました。『幼い頃からの付き合いなのに、片目を怪我した火から変わってしまった』と」
「やっぱり、オブライエンも気にしていたのか」
アモンとオブライエンの付き合いは長い。人が変わってしまったのなら、幼馴染でも気にする。
「じゃあ、気味悪がらない事を約束するか?」
「約束です」
ジムは包帯を解き、苦い顔で右目を出した。
「―――こんな俺でも、気味悪がらないか?」

(……気に入らない)
ジムはそう思い、包帯を巻いた。彼女自身も嫌らしいと思っていたのだが、誰も彼女の事を気にしていなかった。
右目は義眼なのに、誰もが気味悪がられる。ただ一人を除いて。

「貴女、その目は綺麗ね」
「…有難う?」
日本語で有難うと言い、少し恥ずかしかった。璃緒は綺麗な目だと言っているが、自分にとっては戒めの眼だ。
「まるで神話に出てくる神様みたい」

「…俺は、彼女を助けると誓ったんだ」
ジムはそう思い、包帯に掌を当てた。心地良いとは言えなかったが、もしも彼女に会ったら、その時は笑っていこう。
オーディンは右目を代償にして力を手に入れた。
もしも、自分に力があるのならば?
ジムは尾さえ切れない悲しみに心が痛んだ。

(――其れでも)
(――どうか、璃緒に安らぎが訪れますように)

其れは、小さな願いだった。
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