じゃあ私がお妃さま
ランス様ってもしかして寝相悪いんですかと聞くと、そんな訳無いでしょうと一蹴された。けどこのベッドの大きさは何だろう。人一人が寝るサイズじゃない。ハリテヤマサイズだ。所謂キングサイズ。シーツも布団も最高級らしい。染み一つ無い真っ白なベッド。
ランス様の家にお泊り、と来たら何だかイチャイチャ出来そうだと思ったのに、当のランス様は疲れてそんな気分ではないらしかった。とりあえず早く寝ようと急かされ寝室に向かうとこの有様だ。寝室だけの話ではないが、ランス様の家には生活感が微塵も感じられない。まるで作り物のような、モデルルームのようだ。そんな綺麗な家も今日一日で随分汚れてしまったが。私が食べ零しをする度にランス様に怒られた。あのソースのシミ、取れないんだろうな。真っ白なソファ高そうだったのに。そういえばこの家の広さといい家具の質といい、もしかしてランス様、お坊ちゃんなのかもしれない。話し方も綺麗だし、なぜロケット団に居るのかが謎過ぎる。私がそんな途方も訳い考えを巡らせているうちにランス様はベッドに入り、就寝体勢に入っていた。
「はやく来なさい。私はもう寝ますよ」
「あっ、えっ、早っ」
今日はキスは辛うじてあったが他のスキンシップは全く無かったので、ベッドに入ってからがバトルスタートかそうかそうか「私☆バトルスタンバイ!」とか思ってたのにどうやらランス様は余程疲れているらしい。まあ明日から休日だし、まだ日もあるし今日はゆっくり休むか、と私も大きなベッドに近寄った。私のシングルベッドを考えると余計大きく見える。ランス様はベッドの片側に寄って寝ていて、私は反対側に寝転んだ。同じベッドなのにランス様がやたら遠い。これでも恋人なのに、とせつなくなった。ベッドはしっかりランス様の匂いがして寂しい。滑らかなシーツで何度も体勢を変える。
「ランス様…」
「…なんです」
「もっと近くに行って良いですか?」
「何のためのキングサイズですか」
「あと私、枕無いんでランス様の枕半分貸して欲しいです…」
枕が無いのはかなりきつい。首が逝きそうである。
「…」
「ランス様…」
ランス様は深くため息を吐くと、そばのスペースをぽんぽんと叩いた。
「来なさい」
「!失礼します」
擦り寄るとそこは僅かに暖かくて安心した。ランス様の真っ黒無地のパジャマに顔を埋めた。ランス様も拒まずじっとしている。諦めたのか眠いのか。
「…あ、ランス様枕半分こしましょうよ」
「貴女にはこれで充分です」
「…え」
ランス様がこちらに寝返りを打ったかと思うと、もぞもぞと下敷きになった腕を出し、私の頭の下に捩込んだ。所謂腕枕。いつもなら滅多に、しかも自分からはしてくれないのに、なんてサービスが良いんだろう。細い二の腕に頭を乗せると、すぐ近くにランス様の顔があった。相変わらず整っていて綺麗。眠いのか、目が蕩けている。釣り上がった猫目が今はとても可愛い。
「ランス様、だいすき」
「…早く寝なさい」
「顔真っ赤ですよ」
「張っ倒しますよ」
物騒な事を言いながら眠るランス様の胸で私も眠りについた。
100815