エンドロールはまだ来ない


ダイゴさんの借りてきた映画を二人で見るのが私達の主な休日の過ごし方。ダイゴさんはすっかりレンタルショツプの常連になっていた。

「ダイゴさん、今日は何借りてきたんですか?」

「すこし前の恋愛映画だよ」

袋から何枚かのDVDを取り出しながらダイゴさんが言った。先週はアクション映画、先々週はホラー映画だったから、ちょうど良い。ダイゴさんの選んだのは洋画で、言った通り少し古そうなものだった。早速私はダイゴさんのジャケットをハンガーに掛け、用意していたお菓子と飲み物をスタンバイする。ダイゴさんはDVDデッキにディスクを入れながら私を待っていた。ソファに二人並んで座ると、鑑賞会の始まり。

「じゃあ始めようか」

再生ボタンが押された。ヨーロッパの方の話だろうか、バイオリンの繊細な旋律と共に始まった導入は衣擦れの音が聞こえそうなほど静かだった。
ダイゴさんを盗み見ると彼は金色の真っ直ぐな瞳で画面を見ている。その横顔はこの映画に出ていてもおかしくないくらい綺麗。私は照れたように目を逸らし画面を見た。

映画は佳境へ差し掛かる。愛し合う事の出来ない恋人達が木の下の陰で一時の逢い引きをしていた。睦言を交わし、どちらからともなく深いキス。いやらしさのかけらも無い綺麗で純粋なそれにすっかり見入ってしまい、息をするのも忘れそう。
ダイゴさんの手がそっと私の腰に回された。

「ミヤノちゃん」

横を振り向くとダイゴさんの顔がどんどん迫って来て、ついにはその形がぼやけてしまった。柔らかな唇の感触を確かめながら舌を交わす。映画見たいんですけど。そう反論する暇も無く映画のそのシーンが終わってもキスは続いた。お互い苦しくなる頃にどうにか顔を離し、ダイゴさんを睨む。

「キスシーンくらいでムラムラしないでください」

「ムラムラって、そんな品の無い表現はよしてくれ。それに、それを言うなら君もだよ」

羨ましそうに見てた、とダイゴさんの人差し指が私の唇にあてがわれたので、私はその指を噛んだ。

「最後までいっちゃおうか」

「…これ純愛映画ですよね」

「残念ながら僕はプラトニックラブで我慢出来る男じゃない。性があってもこれは僕らなりの純愛だろ?」

「後で巻き戻してくださいよ」

そうして使い込んだお気に入りのソファに沈むのがいつものパターン。



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