NOと言える勇気


現世パロ



(…酒臭い)

朱蓮の啄むようなキスの雨を甘んじて受け入れて、私は思った。何時もは顔色が悪いのでは、というくらいに白い彼の顔が今はほんのりと赤く染まっている。釣り上がった目は潤み、吐息にはアルコール臭。黒刀め、厄介な置き土産を。既に出来上がってしまった朱蓮をその肩に支えながらここまで送ってくれた事には素直に感謝しよう。けど、このベロンベロンに酔っ払った朱蓮を置いてあいつはさっさと帰ってしまったのだ。どうせ酒に弱い朱蓮に酒勝負を吹っ掛けたのは酒豪の黒刀だ。なら責任を取って、せめて寝室まで運ぶとかしてくれたら良いのに、いくら朱蓮が細身とはいえ女の私が抱き抱えて、奥の寝室に連れて行くのは無理な話だった。朱蓮はろくに舌の回っていない言葉をぶつぶつと話して私にのしかかっている。玄関、すごく寒いです。

「ねぇ朱蓮、寝るなら奥で…」

「眠く、ない」

「この酔っ払い」

「このわたしが…ふふ、酔っているわけが、ないだろう」

さっきから繰り返されるのは埒の明かない、朱蓮風に言えば低劣な問答だけ。朱蓮はふにゃ、と気の抜けたような微笑みを浮かべ、私のシャツの中に手を滑り込ませた。熱い手が冷えた私の背中を這う。

「君の肌は…冷たくて気持ちが良いな」


「ちょっと、止めてこの酔っ払い」

「ふふ」

私の首に熱い息を吹き掛けながら酔っ払いの悪戯は続く。酔った勢いでセッ…っていうのはまぁ、シチュエーションはアリかもしれないが、なにせ私は素面である。気分が乗るはずがない。赤紫の柔らかい髪が私の頬を擽りながら、朱蓮の唇が私の肩に吸い付いた。

「こら…っ」

「浅葱、好きだ…」

半分寝そうになってるくせに、手つきはいやらしい。私が一度ゆっくりとまばたきをすると顔を起こした朱蓮の顔がどんどん近付き、ついには視界が真っ暗になった。「ん、ハァ…」朱蓮がキスの合間に艶かしい息を吐き、私の顔にぶわ、とアルコールの香りがかかる。口の中に滑り込んで来た舌は苦い。

「しゅれ…」

「…浅葱」

がく、と朱蓮はうなだれたかと思うと、私を抱きしめて床に倒れた。

「ぎゃ」

朱蓮の上に倒れ込めば、下敷きになった朱蓮が短く「うっ」と呻く。朱蓮が潰れる!と慌てて身体を起こすが、なぜか朱蓮は私の腰を掴んで放さない。これは言わずもがな、騎乗位ってやつだろうか。

「もしもし、朱蓮さん」

「…ここでするぞ、浅葱」

「えええええ」

何を、とか聞くのは愚問、というか意味が無いような気がして、私はリアクションをとるので精一杯だ。綺麗に笑いやがって朱蓮のばか。いつもはこんな事に淡泊な朱蓮。その手が私のスウェットをずらそうと服の中に入り込む。

「やだやだやだばかばかばか放してよぉ!」

「ハァ…」

「しねっ」

私って本当流されやすい性格だなぁとか、朱蓮はどうせ起きたら覚えてないんだろうなぁとか、半ば諦めていた私。の耳に、玄関のドアノブが捻られる音が届いた。

「おーい、電車もうねぇから泊めてく…れ…」

コンビニ袋を提げた黒刀と、目が、合う。

「ちょ、ううううわあああ」

「浅葱…お前大人しそうな顔して、酔った朱蓮を襲」

「ちが、誤解…あ、ちょ、朱蓮寝てるしいいい!」

バッドエンド。



101212