大罪



※生前設定


彼のひとの首をまるで硝子細工でも扱うように掴み、浮き上がった首筋に指を沿えた。手の中には唾を飲み上下する喉仏があり、指には薄い皮を隔てて伝わる体温を感じる。朱蓮は整った薄い唇を微かに開き悩ましげな溜息を吐く。その艶のある声はまるで情事のようだが、生憎私達はこれから命を絶つのだ。

「さあ浅葱、私を殺せ」

「来世で一緒になりましょう」

「もし地獄に堕ちたら?」

「地獄で一緒になりましょう」

身分など無い時代に生まれてきっと一緒になろう。お侍も農民も皆同じ人間として暮らす時代、朱蓮も私も咎められる事の無い時代で。

「浅葱、愛しているよ」

指に力を込める。いくら朱蓮が細いといえど大の男を締め殺すにはかなりの力が要った。私は体重をかけるため朱蓮を床に押し倒す。朱蓮はされるがまま、床に横になった。

「浅葱、ありがとう」

身体を倒すように手に力を込める。朱蓮は眉間に皴を寄せてのけ反り、苦しげに呻いた。常では隠れて見えない片目が露になり、私は瞼に口づけを落とした。私もすぐにそちらに行きます。その意を込めて。
幾分かして、朱蓮は静かに事切れた。彼の望んでいたように首には私の指の型が赤黒く浮かんでいる。私は暫く放心して彼の上に跨がっていたが、戸棚に物を取りに行くために立ち上がった。倉庫にある戸棚。その中には数多い女中の中でも私しか知らない薬瓶があった。その鉛色の瓶を摘み、朱蓮の元へ戻った。相変わらず私が去った時のまま床に横になった朱蓮の横に私も添うように横になる。

「名家のあなたと卑しい私、結ばれるのと命を絶つのでは、どちらが罪が重いのかしら」

返事が無いのを確認してから私は瓶を傾け、劇薬を口にした。


101204