神を越えたもの、魔神。偽りの翼をもがれた僕はようやく地に足を着ける事が出来たんだ。
僕は試合が終わって、世宇子スタジアムのバルコニーで空を見ながら一人、彼女の事を考えた。僕の彼女への気持ちは一体、何だったのだろう。鬼道有人への嫉妬?分からない。ただ、なぜだか彼女が気になって仕方なかった。
「亜風炉君」
黄昏れる僕の背中にマリアの声が掛かる。僕は今彼女の顔を見る勇気が無い意気地無しだったから、振り向く事は出来なかった。マリアは「写真撮影とかで皆忙しいみたいだから」と僕の隣に歩み寄る。僕が寄り掛かったバルコニーの手摺りに、同じようにマリアも手を掛けた。
「わあ、すごく高い。世宇子スタジアムってどうやって浮いてるんだろう?やっぱり最新科学、とかかな。亜風炉君は何か知ってる?」
「…分からない。けどこのスタジアムの原案は僕なんだ。高い所へ行きたかった。人も近づけないような」
煙となんとかは高い所が好き、っていうのは上手く言ったものだ。僕も所詮人なのに、自分も入れないスタジアムを作るなんて馬鹿げてる。そう自嘲気味に言うと隣のマリアは複雑そうにため息をついた。
「亜風炉君、これからどうするの」
「さあ。けど神のアクアも無いし、無名中学に逆戻りかな」
「…ねぇ亜風炉君、サッカー、続けてね」
「…え?」
マリアを振り向く。マリアは澄んだ空を穏やかな面持ちで見ていた。今まで見たことが無い顔だ。僕の胸がとくんと鳴った。
「亜風炉君、神のアクアばっかりに頼ってたから気付かなかっただけで、きっとあんなの無くてもサッカー出来るよ。だっていくら薬を飲んでも自分でしなきゃ始まらないじゃない。だから、亜風炉君ならきっと本当の神様になれる」
「神様、か…」
「神様って言っても、最初は人が何かに縋るために創ったものだと思うの。あくまで私の意見だけどね。だから亜風炉君はチームの神様になれば良いよ。ドーピングがどうとかじゃなくて、皆が頼りにするような、皆の不安を受け止められるような。神様、って例えじゃなくても、強い人、っていうのはそういうのだと思う」
私もよく分からないけど、と言ってマリアがはにかんだ。僕はなんだか胸も頬も目頭も熱くなって、ついマリアに嘘をついた。「鬼道君の声がした。きっと君を探してるよ」と。
「じゃあ私行くね。亜風炉君、また、サッカーしようね」
うん。きっと、楽しいサッカーをしよう。
そうして、今度はそのままの僕で君を振り向かせて見せる。僕の本当の初恋が始まった。
雷門とエイリア学園ダイヤモンドダストの試合は、雷門が窮地に立たされていた。僕はフィールドの外へ飛び出して来たボールをフィールドの中へ蹴り返す。そしてまがい物の翼でなく、本物の足でフィールドに降り立った。
「戦うために来たんだ」
「亜風炉君!」
「君達と共に」
これが僕の、僕なりの恩返し。ありがとう、これからよろしく。
神失格
人間合格
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